我が家のペット
その犬はとてもブサイクな癖して私の家にやってきた。きっかけは母がペットショップで買ってきたとのことだが、程なくして家中の人だけでなく、散歩をしている時は近所の人からも、
「あらー、そのワンちゃん可愛いわねぇ」と声をかけられるようになる。小さい頃はそれが理解出来なかった。
普段は屋根が青い犬小屋で寝起きしているその犬『チロ』は、いわゆるブサイクな顔をした、私の目からはお世辞にもかわいいと言えないタイプの犬だ。寧ろ顔だけで人を殺せるのではないだろうか。体格も大きいので、知らない人が見たら勘違いするかもしれない。その割には散歩は好きで、人懐っこい。近所の人に挨拶をする度にそう感じた。
慣れてくれば確かにチロはかわいい犬だったが、それ以前に利口な友達という評価の方が勝った。私が落ち込んでいれば「くぅーん、くぅーん」と鳴いて慰めてくれるし、母が帰らない日はチロがいるから寂しい、ということはなかった。
私の家は小さな庭付きの一軒家で、祖母がガーデニングを趣味としていたのもあり、沢山の植木鉢には様々な花が植えられていた。春にはパンジーやサクラソウが、夏にはヒマワリなどが見られる他、小さな木も幾つか植えられていた。その中の一つ、ブルーベリーが実る季節になると、チロと私は木から取って食べることも珍しいことではなかった。この幸せがずっと続けばいいな、と思いながら。
ある日、居間でゴロゴロしている時にテレビを見ていると、ニュースの映像が流れてきた。連続殺人事件の犯人の写真と共に、罪状などが読み上げられる。特集も組まれ、それによると、
「自分の外見を馬鹿にしたからやった」と供述しているらしい。
写真の中の男は確かにチロ以上のブサイクだった。ブサイク過ぎて少し吐きそうだ。チロのように愛嬌なんてものはなく、賢さも感じられない。身なりも汚く、太っている。実際、テロップには堂々と『無職 三十六歳』の文字が踊っていた。その後に、
「男は生活保護を受けており〜」と続いた。
新聞でもこの事件は大きな見出しと共に紹介され、犯人の写真もフルカラーで載せられた。それを見た私にはある疑念が浮かんだ。人間はブサイクなだけで差別されるのだろうか。犬はどんなにブサイクでも差別されない。それどころか可愛いと持て囃されるのに。
「おばあちゃん、人間ってなんで外見だけで差別するのかな」
私はアイロンをかけている祖母に話しかける。
「瑠璃ちゃん、そういう人は中身を見てないのよ。チロがお利口なように、外見の下に隠されたものって云うのは確実にあるの」
「そうなの?」
「大きくなったら分かるわ」
彼女はにっこり笑ってそう返した。
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