ジェンガ積み
放課後の児童館のプレイルームには、まるで試合のギャラリーのように子ども達が集まっていた。大半が小学生の、それも七から十までの子どもが五人。皆、近所の小学校に通っていた。
彼らの視線の先にあるのはプラスチック製のジェンガ。色とりどりのソレには、栄養素と代表的な食べ物の名前が白い字で刻まれている。例えば赤いピースならタンパク質の食べ物の名前、黄緑色のピースなら野菜や果物の名前といった具合だ。楽しみながら覚える、という点では知育玩具に通じるものがある。
ジェンガは灰色の、長方形のテーブルの上にあった。その対岸には背の高い紺色のTシャツの男の子と背の低いグレーのパーカーの女の子がいる。二人は睨み合い、高く積まれたジェンガからピースを抜き取り、上に乗せていった。最初は黄色、次は黄緑色。一番端の、女の子の側には赤を。そうして見事なトリコロールが出来上がる一方で、ジェンガタワーは少しずつスカスカになり、バランスが危うくなっていく。
男の子がピンクのピースを抜き取ったのは、この闘いにまだ余裕があった頃だった。それでも真ん中辺りのピースはバランスが崩れかけていたし、ギャラリーの子ども達もドキドキハラハラしながら見ていることは想像に難くない。
女の子は時計が気になり、壁の方を見た。円い時計は『四時半』を指している。つまり始めてから十分しか経っていない。ほっと胸を撫で下ろすと闘いに戻り、やや下の方から緑色のピースを抜き取り、上に積んだ。
「よく倒れないね……」
「二人とも上手いんだよ、きっと」
子ども達はヒソヒソと囁きあった。無理もない。このジェンガタワーはスカスカで、あまりにも頼りないその姿は欠陥住宅や掘立小屋のように見えたのだから。軽い地震、いやそよ風が吹いただけでも根本から崩れそうなタワーの上層には、ログハウスのようにしっかりとピースが積まれていた。
下層も中層もほぼ全て積み重ねてしまったせいで、二人は上層のピースをイタチごっこのように積み上げるしかなくなってしまった。それでも崩れないジェンガタワーを見た職員は、
「わっ!凄いね」
と感嘆の声をあげた。そして気づかないうちにカメラの音が鳴り、写真が撮られていた。勿論二人は気づいていない。
女の子が上層の中でも下の方からオレンジ色のピースを抜き取り、積み上げようとした時、ジェンガタワーは遂に崩れてしまった。テーブルいっぱいにバラバラと、色とりどりのピースが散らばる。もはや白熱し過ぎて栄養素どころではなかったが、それでも二人は楽しそうに遊んでいた。
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