父の秘密
自営業と聞けば、大半の人がモノを商っているのかと尋ねてくるが、俺の家は法華宗の寺だった。確かにお守りやらなんやらを取り扱ってはいるが、それは業務内容の五パーセントに過ぎない。残りの九十パーセント以上、つまりはお葬式や法事でお経を唱えるのが大半だ。そんな訳で両親は忙しく、小さい頃は保育園に預けられ、休日は園の友達であるマサと遊んでいた。
四月に入ったばかりの県立高校に、マサも一緒に来ていた。クラスは違うが、放課後や休日は今でも遊びに行く仲だ。そんな彼と一緒に購買部へ行く道中、こんなことを言った。
「なあ、タク。こないだお前ん家にゲームしに行った時、古いアルバム見つけたんだけど。あの警察官みたいなカッコしたの、お前のお母さん?」
「そんなのあったんだ?よく見つけたな。でも俺の母ちゃんは警察じゃねーし……。わかった、後で親父に聞いてみるわ」
その日の夜、俺はバイト代で買ったゲームソフトをリビングで遊んでいた。白いハードにリモコン型のコントローラーは今見ると少し古い。が、俺が小遣いを貯めて買ったそのソフトはオンライン対戦が出来、コレで休日を潰したことも一度や二度ではない。ソファに座りながらも、お気に入りのキャラクターが吹っ飛ばされ、俺は負けてしまった。と同時に、
「拓郎、飯だ」
「今行く」
父が呼びに来た。
食べ終わった後、俺は例の古いアルバムの中身を問いただすことにした。
「なあ親父、マサから聞いたんだけどさ。母ちゃんが警察官みたいなカッコした写真……。アレ、何?」
「……あのアルバムの中身を正也くんが見てしまったのか。アレはな……」
そう言うと、父は話し出した。
今から十七年前のこと。跡継ぎを親戚から期待されていた父は、母と一緒にある奇妙なプレイにハマっていたという。母が婦警に扮して父の尻を鞭で叩いたり、逆に父が押し倒したり。中には暴力的なものさえあったという。それが何回も続き、一年後に待望の跡継ぎの男の子、つまり俺が産まれたという訳だ。あの写真はその時に撮ったものらしい。
「確か三回目くらいだったかな、あの日聡美がせがんでなあ……」
「……聞くんじゃなかった」
「でもそのお陰でお前が産まれたんだぞ。ホント不思議だよなあ」
「妊娠中も……?してねーよな⁈」
「や、お前がお腹にいた時は俺も聡美もお前を見守ってたさ。つわりが酷くなってからは俺が家事全部やってた」
「意外だな……」
「当然のことだよ」
思った以上に強烈な真実に、俺はマサにどう伝えればいいのか分からなくなった。そして、俺は二階へ上がり、ベッドに寝転がり、充電中のスマホに手を伸ばした。
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