コンビニ飯

 滅多に車が通らない田舎の黒い道路沿いには、大きな駐車場を擁したコンビニがあった。車が十台は入りそうなそこに、自転車を停めて私が入った時のこと。九時を回っても入れそうな店はそこしかなかったから入ったのだが。どうでもいいが、その日は曇りで雨は降らない日でもあった。しかし、とても寒い日でもあり、暖かいグレーのコートを着て行かねば外に出ることさえ叶わない日でもある。




 緑と露草色のポップな看板が明るく見えるそこに入ると、優しく店員さんが出迎えてくれる。それ以前に、まず目に入ってきたのは日用品の棚。通り過ぎていくと、今度は酒のつまみや珍味などのコーナーに出る。スーパーなどに比べると確かに小さいが、私は知っている。ここにしかないビーフジャーキーの存在を。厚切りもいいが、黒胡椒が効いていて辛いビーフジャーキーが私の好物なのだ。幸い、二、三袋程フックにかかっている。手持ちの小銭は無駄遣いできないし一袋だけでも充分だと思い、私はその中から一つだけ手に取った。




 色とりどりの菓子が並んでいるコーナーの誘惑を振り払うまでの気力はなく、棚に並んでいる飴をひとしきりじっと見つめた後、私は梅のど飴を手に取る。チョコレートやポテトチップス、せんべいも良かったのかもしれないが、今はそんな気分にはなれない。というより、飴程噛み砕きたいと思わない、と言った方が適当かもしれない。飴の後は携帯食のコーナーに向かう。携帯食といっても、缶詰や瓶詰め、レトルトの類ではない。たまにテレビCMが放映されている程有名な会社から出ているものだ。ブロックと呼ばれているが、ぱっと見は菓子にしか見えないそれのバニラ味を手に取り、私はレジに向かった。




 誰もいないイートインスペースの、一番端っこの椅子に座り、あまり口をつけていない緑茶のペットボトルをリュックの中から出す。テーブルの上には先程購入した食べ物達がばら撒かれている。菓子ばかりに見えても仕方ないラインナップだが、このうち二つはある一点において優秀な組み合わせだと思う。ビーフジャーキーと携帯食は、保存食の中では携帯性に優れたもので、尚且つ手軽にカロリーが取れる。後者はボリュームが少ない割に腹持ちもいいので、登山家などには重宝するのではないだろうか。もちろん、日常生活の中でも食べる人がいない訳ではないが。




 ビーフジャーキーの袋を開け、中から一枚取り出してみる。口に運ぶと、黒胡椒の辛さが広がっていく。旅の味はこんなにスパイシーだったのだろうか、と思いつつ私は肉と胡椒のハーモニーを舌先で楽しんだ。

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