古本屋Ⅲ

 そのページには、でかでかと『世界の奇食〜メインディッシュ編〜』という見出しが踊り、載っている写真も実際に見たら躊躇いそうなものばかりだった。ゴキブリの唐揚げに、ドブネズミの踊り食い。孵化直前のアヒルの卵を茹でたバロット、発酵させた塩漬け魚のシュールストレミングなど。あまりの気持ち悪さに次のページに進みたいくらいだった。ちなみに、由来も載ってはいるが、あまりのインパクトの強さに頭に一つとして入ってくることはなかった。




 次のページをめくってみると、今度は『海外から見た和食』というゴシック体の見出しが踊る。やはり、見開き一ページに見慣れた和食の代表的なメニューが載っている。が、その中身はある意味で碌でもないものであることを即座に思い知らされた。




 刺身の項目を見てみると、日本で当たり前に食べられている理由が書かれていると同時に、外国では生魚が食べられない理由もきっちり書いてある。つまり、このページは日本発祥のゲテモノ料理のページだということになる。他にも金平牛蒡やマツタケ、納豆に卵かけ御飯なども載っている。僕は怒りを通り越して呆れていた。

「海外に行ったことないから分からなかったけど、和食ってそんな風に思われてたのか……」




無論、全てが全てそういう訳でもなく、味噌汁やたくあん、おにぎりといったものも載ってはいる。意外とこちらは高評価だった。梅干しについても、最初は驚くようだが、慣れれば美味しく感じられると書かれている。僕はさっと目を通した後、次のページへ行った。




 カラーページの巻末には調味料のページがあった。塩や砂糖、みりんや醤油だけでなく、あまり見かけないスパイスなども載っているあたり本格的だ。塩にも海塩に岩塩、と種類があることまで記されている。本格的だが、子供に理解出来るのだろうか。ルビはちゃんと振ってあるのだが。その前の、デザートのページも高級なパティスリーにありそうなものや和菓子屋に売ってそうなものが大半を占めていて、随分と本物志向だな、と思った。




 二色刷りのページには調理器具やカトラリーも紹介されている。確かにそういう意味では役に立ちそうだ。




 一通り図鑑を読んだ後、僕はそれをパタンと閉じ、本棚の中に優しく戻す。次の本を立ち読みしようと、今度は新書や文庫本のコーナーに向かうことにした。

「次は、あまりインパクトのあるものではなく、毒にも薬にもならなそうなものが読みたいな……」

そう思った僕は図鑑のコーナーを離れ、まだ見ぬ次の本棚へ向かった。

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