古本屋Ⅰ
僕が住んでいる街には変わった古本屋があるらしい。小さい頃にはなかったので、どこかから移転したのでは?と僕は思っていたが、どうもそうでもないようで、二、三年前に越してきたおじさんが一人で始めたとのことだった。僕が大学一年の夏休みに聞いた話だ。
元々僕は本が好きだったし、小説を書くのも好きだ。パソコンで書くよりも昭和の文豪みたいに万年筆で書くのが楽しいのだが、同じサークルの仲間にコレを話すと、
「え、お前変わってんなあ」
「パソコンの方がスラスラ書けるよ?」
と返されておしまいだ。でも、僕は僕のやり方でやろうと思う。
大して変わり映えのしない街中を十分程歩いていくと、古本屋らしき建物が見えてきた。コンクリート造りの、小さなマンションの一階にあるそこには看板が床に置かれていた。
『シノダ古書店』
コレがこの古本屋の名前のようだった。僕は自動扉を開けて、店の中へと入る。
「いらっしゃいませ」
中年の、おっさんとしか形容できないような店主が、僕を優しく出迎えてくれた。ネイビーのセーターにアンダーリムのメガネをかけているが、頭が薄いせいでお洒落には見えない。僕は、会釈を軽くした後、目の前の本棚に向かっていった。
古本屋だというのに、マンガの種類は少なく、少し前にテレビアニメが放送されていたものもちらほらと見かける。子供から大人まで、広く世に知られたあのアニメや、朝にやっていたあのアニメ。更には映画がやっていた程の人気作品もある。青年漫画が殆どで、少女漫画は一冊もない。少年漫画もメジャーなものばかりだ。
次は児童書のコーナーに行ってみた。分かりやすく書かれた漫画の伝記や、児童向け文庫。物語以外にも子供向けのノンフィクションもある。絵本などもあるが、その中には大人になっても響く、悪く言えばグサっとくるような作品もある。昔小学校で読んだことのある小説から、科目問わず教科書に載るような名作もある。懐かしい気持ちになって、そのうち一冊を手に取ろうとした瞬間、あることに気がついた。
児童書コーナーの隣に「図鑑」と書かれたコーナーがあるのだ。百科事典並のページ数がある図鑑が、ところ狭しと並んでいる。が、背表紙に書かれた出版社を見るに、子供向けに通信教育の教材を発行しているようなところや、子供向け学習漫画を発行しているようなところのものだった。だが、子供向けと侮ってはいけない。現に、僕の目に入ったものの中には、
『世界の食べ物』
『世界の石鹸・洗剤』
という二冊があったのだから。
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