唐辛子を求めて

 とある暑い国のある大きな島では、その日もいつもと変わらぬ日常が流れていた。いつも通りに農夫が畑を耕し、子ども達は畦道で駆け回る。電柱には黒い頭の鮮やかな茜色の嘴を持った鳥が止まり、側から見れば平和で長閑な田園風景そのものだった。ただ一つ、この畑で育てているものだけは少し変わっていた。赤唐辛子だ。辛さを求めてやまない命知らずの人類が手塩にかけて育ててきたソレは、郷土料理のスパイス、或いはホットソースを形づくるその一部として彼らの舌を楽しませる為に在る。しかし、そんな風にして辛さを増した唐辛子でさえも、小鳥達の眼にはただの栄養あるおやつにしか映らないようだった。




 小鳥達の群れは農地から程近い森の中にあり、その中の長老は何故か白い色をしていた。その他の鳥達も、銀やカフェラテを思わせる薄茶色など、穏やかながらも地味な体色の鳥がいた。長老は皆の前に歩み出て、

「やぁやぁ、皆のもの。今日は集まってくれてどうもありがとう。我々文鳥の群れの一羽が、先日とても美味しい果実を見つけてくれたのはご存知かな?」

「俺が見つけたんだぜ?細長くて赤いやつな!ツヤツヤで、一口啄んだら美味くてよお。美味すぎて種ごと食っちまったぜ」

と銀の鳥が自慢げに言った。

「どこにあるの?」

「そんなに美味しいなら人間に見つかりそうだけど。そこに辿り着くまでに安全なルートは?」

「食べたい食べたい!」

群れの文鳥達は口々に言った。




 銀の鳥が差した唐辛子畑は森の隣にあった。見事に耕された土には赤く艶やかな唐辛子が実っていたが、幾つかは食べかけの果実が混じっている。その向こうには鍬などが無造作に置かれているが、鳥達は興味がないのか真新しい唐辛子がある方へ向かっていった。




 実っている唐辛子はどれも赤くて細長い。人間から見たら辛味を演出する為のスパイスで、決してメインにはなり得ないようなものだが、小鳥達にとっては違った。寧ろ、彼らは目を輝かせ、我先にと飛んでいく。しかし、手付かずのソレは数が多くはない。その上数十羽の群れを賄い切れるかどうかもわからない。文鳥達は唐辛子を目前に、遂に喧嘩を始めてしまった。




 長老が制止しても喧嘩は止まらない。結局、唐辛子にありつけたのは賢い鳥と、争い事を嫌う穏やかな鳥達だけだった。




 のんびりと唐辛子を食べている鳥達の前に大きな影が現れた。この畑の持ち主である人間だ。彼は鳥達を目にすると、手にしているパチンコで撃ち落とす。一羽また一羽と撃ち落とされていく仲間を目にした彼らは食べかけの唐辛子と別れ、逃げるしかなかった。

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