弁当
その日は穏やかな日差しとそよ風が吹く、快晴とまではいかないがそれなりにいい天気だった。植っている木の名前は知らないが、紅く色づき、一枚また一枚と落ちていく。それが幾らか積もると、今度は毛のない猿みたいな二本足の連中が集めに来て、少し経つと道が綺麗になる。ここのところそんな光景ばかりを、俺は高い木の上から見ていた。
特定の日にやってくる二本足の奴らの大半はカラフルな服を着ていて、もの珍しそうに俺のことを見ている。中には小さい板のようなものを光らせてから去る奴もいた。
「思い出づくり」「いやー、いいモン見た」「楽しかった」
そんな声が聞こえてくる。が、俺には全く関係ないことだった。恐らくその言葉は、ライオンやゾウ、パンダといった動物に向けられているのだろうから。それよりも毎日の食事が楽しみで仕方ない。今日は一体何が来るのだろう。俺の腹はもうぺこぺこで、待ちきれない。水を飲みながら、俺は地味な色の二本足が檻の外から投げ込む飯を待ち続けていた。
「………はぁ〜」
「どうしたんスか、先輩。先輩?」
「また馬肉かよ……。なんで今日は鶏じゃねぇんだ……。ここ一週間、ずっとそうじゃねぇかよ」
「気持ちは分かるッスけど。文句言ってちゃ始まんないッスよ」
隣の檻にいるシロフクロウはそう言って嘴を器用に使って昼の弁当……もとい馬肉の塊を引きちぎる。そこからカケラを取ると、口の中に入れた。口の周りからは赤い血が滴り落ち、白い羽毛まで赤く染めている。顔を見ると美味しそうに食べている。
「……はあ、誰か鶏の死骸とか投げ入れてくんねぇかな」
「またソレッスか。そんなモノ好きがここに来る訳無いッスよ」
「……毎日毎日馬肉ばっかじゃ飽きるンだよ。俺、元々ここにいた訳じゃなくてさ、もっと高い山の方にいたんだ。あの頃は毎日命懸けだったけど、飯は美味かった。色んな奴らの屍があってさあ。特にシマウマとかガゼルの屍が美味かったんだぜ?まあ、俺はあんまり嘴とんがってねえから、別の奴らにやらせる時もあったけど。でも、狩の後の飯は美味かった」
「よく腹壊さなかったッスね」
「……ある日突然二本足の奴らに連れてかれて、数ヶ月くらいこことは違う檻で過ごした後に、ここに来た。怯えずに過ごせるのはいいが、一生ここで過ごすのか⁈知らないメスもいるし」
「オイラは生まれてからここの生活しか知らねえッスよ。何も起きないのは確かにつまんねーかもしれない。でも、オイラ元からのんびり屋だからここがいいッス」
「…………」
そうして動物園の昼は過ぎていく。檻の外の連中が自由で羨ましい、と思う午後だった。
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