第7話

「これで、しばらくはこっちに戻って来ねえだろうよ」


 みかりんは笑った。わずかに目を細めてユーディを見た。


「あんたのあんなうろたえた顔見ちまったら、さすがにとどめを刺すのはためらわれたわ。……あれでも、母親なんだろ?」


 ユーディが小さく、それでもしっかりうなずくと、みかりんは満足げに笑った。


「まあ、あたしたちも森に住む者同士だからね、あんまりもめたくはないっていうか」

「あの……」

「なに?」

「母上は……」


 ユーディは聞くのを少しためらったが、思い切って切り出した。


「母上は、森で元気に暮らしてるんだろうか」


 するとみかりんは驚いたようにユーディを見た。それから声を上げて笑った後、


「元気も元気。ウザいからみんなに嫌われてるよ」

「え? 森でも?」

「そうだよ! そのくせ魔法覚えるの早いからさ、仕事取られちゃったりして。ほんとはあのまま一息に殺っちゃっても、文句を言う人はいないんだろうけどさ、ほら、あの人、汚れ仕事とか厭わないからさ。あの人が引き受けてる汚い仕事が回ってきて、そのお返しでうらみを買うのも嫌だし」

「え? そんなに?」

「ああ。魔女はたいていタチが悪いが、あんなひどいのは見たことない」


 そして言いにくそうに少し黙った後、


「あの人の場合、恨み返された後の仕返しがまた怖いんだ。殺そうとしても簡単には死ななそうだし、死ななかったときに百倍返しされるのも怖いしね」


 と、頭をかいた。


 そう、森に住む魔女たちは惚れ薬や病の薬などを作って売って生業を立てている。けれども中には呪いや殺しの依頼もある。


 母は思い出したように攻撃を仕掛けてくるし、風の噂で悪い魔女になった、というのは聞いていたけれど、まさかそこまでとは……。


 元女王とは思えない振る舞いだが、母らしいと思えばそれが一番彼女らしいのだった。


「おーい、そっちは大丈夫か!」


 みかりんが地面に向かって呼び掛けた。下ではシマニャンが早く行け、と言うように手を振った。


「大丈夫にゃ!」

「ちくしょーーーーー!」

 が吠えた。


「みかりんテメー、最後だけ来ておいしいところもってくんじゃねえええええっ!」


 ユーディはみかりんと顔を見合わせて笑った。


「送ってってやるよ」

「すまない」


 城壁を超えた。


「そろそろだ。下りる準備でもしておきな」


 城がすぐそばに迫った時、みかりんはおもむろに言った。そのまなざしは真剣だった。


「次、もしほんとにやる気があるなら声かけな。全力で助けてやるから」

「……母のことか?」

「ほかにいないだろ」

「……覚えておく」


 ユーディはぎこちない笑みで返した。


 そのままふたりは城に向かったのだった。

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