第6話
ツキモリがふらふらとユーディの前へと歩み出た。
「ユーディ。わたしの息子……」
「母上、やめてくれ」
ユーディはとっさに剣を正面に構えた。
「わたしは、母上を殺したくはないんだ」
「この、裏切り者……」
「これは、民のためなんだ!」
ユーディの剣が宙を舞った。けれどもそれは空を切り、ツキモリが一歩近づいた。
「裏切り者!」
ごう、と、音を立て指から炎がほとばしった。ユーディは地面を転がり、その炎から逃れた。やみくもに剣を振り回す。
「すべて、おまえのためだったのに!」
炎が顔のそばの下草を焼いた。ユーディは、その言葉に一耳を疑った。
「……どういうことだ?」
「おまえの父親は貴族や他国から多額の借金を背負っていた。貴族たちは証文ちらつかせ、もっと民から金をむしり取れと迫った。他国は領土を渡せと迫ってきたのだ。お前があたくしの跡を継ぐときには、借金のない、健全な政治を行う。そのために改革を行っていたのに……!」
ユーディは、動きを止めた。
「なんだって……?」
「なのにおまえは……お前はニワの言いなりになって、あたくしを裏切ったのだ!」
ユーディには理解ができなかった。自分の見てきたものは、あえぐ民の姿、むさぼるように金を集める母の姿……。
「その腐敗の一番の根源はニワ! おまえが慕っているあの女だというのに!」
そして、涙に滲んだ目でユーディをにらみつけた。
「あの女の言いなりになって、母であるあたくしを裏切るなんて……!」
両腕を振り上げた。
「や、やめてくれ母上! 誤解だ! すべて誤解なんだ!」
ユーディはめちゃくちゃに剣をふるった。けれどもここから母に届くわけはなかった。
「みんな、死んでしまええええええっ!」
もうダメだ!
「ユーディ!」
シマニャンの声がした。
体を丸めて横っ飛びに飛んだ、その時だった。
耳のそばで、風を切る音がした。
そして。
ユーディは誰かに体を抱えられた。今まで自分がいたところに火柱が上がった。
「間一髪だったね」
その声で気づいた。自分が今乗っているのは巨大な緑色のバナナ。そして自分を抱えているのは……藁でできた上着と腰巻のようなものをつけた、グリーンバナナ魔法少女のみかりんだった。
バナナの森に住む魔法使いで、賢者シマニャンの友人だ。
「なんでここに!」
「キノコの焦げる匂いがしたからさ。イヤな予感がして来てみたら、このザマだ」
みかりんはユーディをバナナの上にまたがせると、自分はバナナの上に立って軽く両ひざを曲げた。
その姿は、ツキモリをさらに激高させたようだった。
「邪魔をするな!」
「するなと言われてやめるあたしじゃないよ!」
みかりんが両腕を顔の前でクロスし、そのまま前に突き出した。すると、まだ硬くて青い大量のバナナがツキモリめがけて飛んでいったのだった。
「小癪な!」
ツキモリはすべての指から炎をほとばしらせ、後ずさった。固くて青いバナナは炎を浴びてもすぐには勢いを落とさず、熱を持ったフライドバナナになってツキモリへと飛んでいったのだった。
「ああああっ! 痛い! 痛いじゃないのっ!」
ツキモリが顔を両腕で覆い、後ずさる。みかりんは楽しそうに口をゆがめてユーディを見た。
「さあ、どうする⁉ あたしがこのままとどめを刺そうか? それともあんたが殺る?」
「それは……」
すぐには返事ができなかった。実際、母は自分を殺そうとした。けれどもそれは自分が母を殺そうとしたからだ。
まだ耳の中にはさっきの声が頭の中に残っていた。
―すべて、おまえのためだったのに!
ためらうユーディに気づいたのだろう。みかりんは突然表情を曇らせ、「ふん」と、鼻で笑った。
「あんたがやらないんだったら、あたしがやるよ! くらえ! バナナの皮!」
すると今まで飛んでいた緑色のバナナが一気に黄色に熟し、皮がむけてツキモリの周りに落ちた。
「なああっ、なにを! なにをする!」
突然の変化に戸惑うツキモリ。その場で右往左往し始めた。
と。
「あっ!」
その靴が、バナナの皮を踏んだ。つるっとすべってそのまま体が宙に浮いた。そして、ものすごい勢いで飛んでいった。
「ぎゃあああああああっ」
最後にきらりと光ったように見えたのは気のせいだろうか。そのまま、深い深い魔女の森深くまで飛ばされたのだった。
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