第2話 チケンラーメン

ピンポーン。

インターホンが鳴ったのでドアを開ける。

「ういっす。」

「ういっす!」

「いやー、なんか通い妻みたいな感じで照れますな。」

「通い妻の意味知ってんのか?」

「知らないけど。」

「だろうな。」

「今バカだなって思ったっしょ?」

「今じゃなくて前からの間違いな。」

「プッチーン、キレました。もう口聞いてあげません。」

「寂しいから飯食おうって言ったの誰だよ。」

「それをOKしちゃうチョロ男は誰だよ?」

「ぐうの音もでねぇ。」

いつも通りにお湯を沸かす。

いや、いつも通りではないな。

だってコイツの分も沸かすから。

「今日は何〜!」

「今日はチケンラーメンだ。」

俺のおすすめはキャベツを千切りにしてトッピングすることだ。あんまやんないけど。

「あれって袋麺じゃないの?」

「実はカップ麺としても出てるんだ。割高だけどその分具が入ってるしいいんじゃないか。」

「でもさ、遠野は作るのがめんどくさくてカップ麺食べてる訳じゃん。」

「まあそれもあるな。」

「ならお湯を注ぐだけの袋チケンラーメンとカップチケンラーメンも変わんなくない?」

「いいや、変わるね。超絶変わる。」

「俺はカップのチケンラーメンに入ってるふわふわたまごが好きなんだ。」

「ふわふわたまご?」

「決して放課後ティータイムではないぞ。」

「?」

「なんでもない。」

しまった、ナウいヤングには伝わらないチョベリグなギャグ注入しちゃったぜ。

「とにかく、俺が好きなのは蓋を開けると器に広がるふわふわたまごだ。」

「へえ、しかと見届けるわ。」

言い回しかっこいいな……俺も今度から使おう。

「あと一分!」

「タイマーうるさくて好きじゃないから秒で止めるから見てて!」

「おう。」

……

……

……

「ピ」

「速いな」

「いや、もっと削れる!」

「そうか。」

「いただきます。」

「いただきます!」

蓋を開けると、馴染み深いスープの匂いとふわふわたまごが広がった。

「ふわふわだ!」

「だろ。」

「ふわふわすぎる……法律的にセーフなの?」

「合法なんだな、これが。」

「マジか!」

俺はチケンラーメンの麺と似た麺をたくさん食べてきた。

おやつ用のちいちゃいやつや、どこかの企業のプライベートブランドのやつなど、色々食べてきたが、やはりチケンラーメンのちぢれ具合が一番ちょうどいい。

トンカツをいつでも食べれるくらいのちょうど良さだ。

「これさ、めっちゃおいしくない?」

「卵が麺と絡まってとろっとした食感?って言ったら良いのかな。」

「しなしなのやつがお湯で膨らんでこうなったんだと思うとすごいよね。」

「たしかに、たまにすっげえ膨張する具とかあるわ。」

「コーンとかね!」

「コーン膨張しない気がするぞ。」

「あれ〜?」


「あのさ、遠野っていつも一人で寂しくないの?」

「寂しさを感じるのは寂しくない幸せを知っているからだ。俺は寂しくない幸せを知らないから寂しくないんだ。」

「ふ、ふーん。」

「で、あのさ、今度学校で話しかけていい?」

「そんなのに許可取るのか?今のジェーケーってのは。」

「死語だ……」

えっ、ジェーケーって死語なの?

高校生を表す言葉なのに?

「とにかく好きにしろよ。じゃあまた。」

「うん!またね。」

そう言ってドアに鍵をかけた途端、俺はとても寂しい気分になった。

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