花火の書き方
幼縁会
第1話
「綺麗な花火……」
思わず口から零れた言葉は、聞く者によっては失言と責め立てるのだろう。
だがいまや少女の軽率な口を咎め、折檻してくるような人物は一人もいない。
黒の瞳が映し出すは、かつて少女を縛りつけていた牢獄。血縁という鎖縛を以って首を繋ぎ、愛の名を持つ鞭を振るって痣を刻む悪辣なる監獄。
ふと何かを思い出し、延々と夜闇に灯る花火から足元の野草へ視線を移す。
硝子張りの格子から見えた花の名は知らずとも、痛苦で眠れぬ夜に眺めてお世話になった恩はある。
「燃え移ったら可哀そうだよね」
少女は手が汚れるのも厭わずに土を掘って根を掬い、両手で抱えた。
花が咲くには養分が欠かせないと学校で習った覚えがあるが、手に持つ野草と眼前のものにある差異はそこに由来するのだろうか。
そして、花火とは花に火と書くとも。
少女は小首を傾げて思案するも、答えのない問いに執着することもない。
「なんだか、柔らかいね」
少女は野草に向かって微笑むと、視線を再度正面の花火へと移した。
轟音を上げて燃え上がる花火は真紅の輝きで夜闇を照らすも、そこに少女の心を救った柔らかさは皆無。
しかし、それでも──
「本当に、綺麗な花火……」
花火の書き方 幼縁会 @yo_en_kai
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