第6話 帝都 凱旋門への道

『 予定地点に、再集結! おやつは、500銅貨までだぞ! 全員、解散! 』



 行進する騎兵隊の中心で、赤毛の男と、金髪の青年が、ゆっくりと進んでいる。

 二人は、見栄えの良い赤いマントの式典用の軍装に着替え、馬上に揺られていた。

 市民が、建物から顔を出し、声援を送るのに、手を振って応える。

 

 宮廷に近い近衛軍団司令部から、凱旋門まで、堂々と隊列を組んで移動しよう。

 まだ、少し距離があるな。


 赤毛の男“ロン”は、金髪の同僚“ヤス”に尋ねる。


「議員さんが、発言してから、お前は、ずっと、しゃべらなかったな!」


「………んんっ、ああ。

 おやつに、何を買うのか考えていたんだ。

 お前が、500銅貨まで、というから、選択肢が狭まって、助かる。」


 赤毛の男は、突っ込みを我慢した。

 まだ、移動は始まったばかりだ。


「たしかに、物ごとは、シンプルなほうが良い。

 余計なことに、頭を悩ませたくない。」


「バナナは、おやつに入りますか?」


「いまさら言うんかい!てっきり、会議の場で言うかと思ってたぞ!」



 赤毛の“ロン”は、ふと“客人”が気になって、相棒“ヤス”に、“かま”をかけてみる。


「議員について、何か、“触って”分かったことがあるのか?」


 さきほど会議の解散後、ヤスは『貴方のような美しい人と、お近づきになれて、うれしい』など、適当なことを言って、新人に、べたべた触れていた。


「……う~ん。 ……いいや、特に何も。

 密偵の報告通り、記憶喪失のド素人というのは、間違いないらしい。」


「どうした、お前が“見た”にしては、歯切れが悪いな。

 “触って”、何を“見た”んだ?」


「俺も、よくわからん。」


「まあ、そういう時もあるよ。心配すんな。大丈夫だろ。善人っぽいし。」


 赤毛の男は、珍しく本気で悩んでいる様子の親友を、慰める。


「美人に対する、お前の人物評価ほど、当てにならないモノはないわぁ。

 “ロン”、もっと人の内面を、見て? 心の美しさが、大切なんだよ?」


「金髪碧眼で、美丈夫のお前に言われても、嫌味にしかならんわ!」

 

 赤毛のマッチョは、親友を元気づけるため、明るく突っ込みを入れる。


「それより、傍仕えの部下や従者達の方が、なかなかの曲者のようだ。

 あの新人、手ごわい相手になるかもしれない。」


「そうか、後で、リストをくれ。」


「分かった。“夜這よばい”を、かけるんだな?」


「かけんわ!」



「しかし、ヤスよ?

 政治担当の“スケ”さんや、金庫番の“カク”さんを、同行させて良いのか?」


 赤毛の男“ロン”は、金髪の同僚“ヤス”の二人の部下について、尋ねる。


「良いんだ。

 彼らは、俺が幼いころから、俺の護衛も兼ねていて、腕が立つ。

 軍隊経験も長い。

 戦列に加えて、問題ない。」


「うむ。お前が言うなら、そうなんだろうな。

 ただ、この“大事な時期”に、お前の頭脳や心臓というべき2人を、帝都から離してよいのか?

 お前の代わりに、帝都で、政治工作や資金集めをさせた方が、軍の兵站も安定すると思うのだが……。」


「彼らは、彼ら自身よりも、優秀な人材を、たくさん配下に抱えているのさ。」


 金髪の青年は、フッとわらう。


「ちなみに、俺が、帝国中から集めた。

 俺が、育てた。 といっても、過言ではないな。」


 金髪の青年は、カッコつけて、巻き毛を触る。


「“後方彼氏”ヅラするんじゃあ、ない。」


 赤毛の男は、太い腕で突っ込む。

 だが……。


「俺は、まだ、“カツラ”じゃあないっ!」


「ごめんよ。悪かったって!」




「あの二人は、今は、帝都から、離した方が良いんだ。」


 金髪の青年が、つぶやくように、言葉を紡ぐ。


「ふむ?狙われているのか?」

 

 赤毛の男は、心配そうだ。


 帝都の政治では、暗殺や妨害工作は、日常茶飯事だ。

 若い女性や、幼子、生まれたばかりの赤子ですら、標的にされる。


「相手は、誰だ?」


「愛人達と借金取り」


「えっ?」


「“スケ”さんは、最近、“痴情のもつれ”が、ひどくて。

 屋敷の門で、恋人や愛人による殺傷沙汰が、連日のように起きてる。

 冷却期間を置くなり整理するなり、一度、人間関係をリセットさせた方が良い。


 “カク”さんは、“辞職願い”を、出してきた。

 今年に入って、もう3回目だ。

 24時間、借金取りに追いかけられて、疲れたそうだ。

 暖かい東方の属州に、休暇に行きたいって、いつもうるさいんだ。」


「スケさんもカクさんも、お前の政治工作や、資金調達で、心身が削れてない?

 もう、休ませて、あげようよ?」


 これは、突っ込まざるを得ない。

 赤毛の男の口調は、心底、彼らに同情しているようだ。



「実は、今回の出陣は、彼らの慰安旅行も、兼ねてるんだ。」

 

 金髪の青年が、特別な秘密を漏らすように、ささやく。


「そんなわけあるか!! 3個軍団を、全滅させた敵と戦いに行くんだぞ!?」


「二人とも口を揃えて、『帝都よりマシだ』って、言ってた。」


「命がけの“旅行”に、なりそうだな!」



 そろそろ、巨大な凱旋門が見えてきた。

 広場に、集まった人々の大きな歓声が聞こえる。


「装備の乱れがないか、確認しよう! 胸を張れ! 凱旋門の近くを通るぞ!」






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【異世界戦記】信じて送り出した、10,000人の兵隊が、1か月たっても、戻ってこない!? 何で、もっと早く、言わないんだ!? もういい、俺が行くッ!!(・・・お、お待ち下さいッ、閣下ぁ~!)【珍道中】 読んで頂けたら、うれしいです! @KEROKERORI

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