一話あたりの文字数

 前回、他の創作論に目を通すようになったと書きました。

 同時にWEB小説の常識はここ十年でほとんど変わっていないとも。


 しかし、明確に変わっている点が一つありました。


 というのも。いくつかの創作論を読み進める中で、大きな違和感を覚えた項目があったからです。興味を引かれたので、ブラウザ検索を使ってさらに多くの創作論を調べてまわりました。しかし、やはり結果は同じだったのです。


 その違和感とは?


 一話あたりの文字数です。


 創作論の多くで2000文字をプッシュする声が多かったと思います。

 私が調べた限りでは、2000文字を主張する声が最も多く、次に3000文字が多数、そして1000文字と4000文字が少々といった具合でしょうか。


 まとめると、カクヨムの最適文字数は2000~3000文字となるでしょうか。

 ※こう書くと2000文字台と解釈する人と、2000~3999文字と解釈する人がいるため、認識にブレが生じるのですが、私の認識は後者です。3000文字を目標に書くと、だいたい3500文字前後になるので。


 この結果には正直、驚きました。というか本音のところでいえば、本当にそうなのか? です。ちなみに、6~8年前の小説家になろうにおける最適文字数は、3000~4000文字、多くて5000文字台までといわれていました。


 これはカクヨム民独自の考え方なのか、それとも時代が変わり常識が変化したためなのか、残念ながら今の私には判断することができません。


 そして2000文字をプッシュする理由としてあげられていたのが、隙間時間にサクッと読めるから、WEB小説は軽いノリの方が好まれる、一話あたりの文字数が多いとうんざりする、くどい、話が前に進まない、イライラする、ブラバ要因になる、などになるでしょうか。でもこれらの理由って、別に新しい要素は何一つないんですよ。私が活動を始める前、十年以上前からずっといわれてきたことです。


 ではなぜ、考え方は変わっていないのに2000文字が最適だと言われるようになったのでしょうか。


 その理由について、私は推測することしかできません。ただ、小説家になろうにおいて"どうして3000文字"が最適文字数の下限に設定されていたのかについてなら、説明することができます。


 理由は至ってシンプルです。


 当時のランキング作品(書籍化作品)の文字数は多い傾向にあり、かつ、その最低文字数がおおよそ3000文字だったからです。(もちろん例外はありますが)


 このため、2000文字は軽くて読みやすいけど、話が軽すぎてランキング上位では通用しないと考えられていたのです。


 また、当時においてさえ、文字数は少ない方がいいというのが定説でしたが、累計ランキングトップクラスの作品は、その常識を完全に無視していました。つまり、本当に面白い作品は、文字数が増えることによって求心力を失わないのです。そればかりか文字数が多いことによって、情景描写や心理描写をたっぷり盛り込むことができ、作品に厚みと深みが加わります。これによって、読者をより一層深く作品へ没入させるのです。


 試しに小説家になろうの累計ランキングトップ5の文字数をみてみましょう。ここは当時の顔ぶれと、ほとんど変わっていないのでわかりやすいと思います。



 ――引用開始――――――――――――――――――――――

 小説家になろう 累計ランキングトップ5より

(2023/10/31 時点)


 1位 転生したらスライムだった件 平均文字数:6722文字

 2位 とんでもスキルで異世界放浪メシ 平均文字数:3338文字

 3位 無職転生 - 異世界行ったら本気だす - 平均文字数:9895文字

 4位 ありふれた職業で世界最強 平均文字数:11585文字

 5位 ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~ 平均文字数:4235文字


 引用URL:https://yomou.syosetu.com/rank/list/type/total_total/

 ――引用終了――――――――――――――――――――――



 当時の小説家になろうにおいてさえ、平均文字数5000オーバーはやめた方がいい(5000文字台はOKとする説もあり)と言われていました。にも関わらず、その常識をぶち破っている作品が三つもある、ということがおわかり頂けたでしょうか。


 このため、最適文字数は3000~4000文字とされつつも、物語をしっかり書きたいのなら5000文字台もあり、と許容されていたのです。(流石に6000文字以上となると、ブラバ率が跳ね上がるので推奨している人はいませんでした)


 ただし、勘違いしてもらいたくないのですが、文字数をただ増やせばいいってもんじゃありません。文字数の増加と読者の離脱率は比例します。文章量に対して、作品の内容が見合っていなければ、読者は読むのをやめてしまうのです。


 累計ランキングトップクラスの超一流作品が読んでもらえているのは、あくまで内容が面白いから。読者を引き込む文章力、先を期待させる構成力、そして感情移入に足るキャラクターの魅力、これらの要素を高い水準で維持できているからこそ成り立っているのです。


 つまり、底辺である私たちにそのような技量はないので、文字数を少なく抑えることが無難だという結論に至ります。

 特にWEB小説を主戦場として戦う場合は、文字数を少なくした方がいいと思います。ここの考えを特化していくと、最適文字数は2000となるのかもしれませんね。


 実際、一読者として読むようになって、2000文字は息継ぎが楽で読みやすいと感じました。一息ついて、次のページへ自然と手が伸びる。ゆえに継続率が上がる。だから2000文字を推奨する人が多いのかもしれません。


 そういう私も、昔は5000文字を目標に書いていましたが、今は文量を減らし、4000文字を目標に書いています。もしかすると、もっと減らした方が良いのかもしれませんが、今更変更は利きませんから今回はこのままいくとしましょう。




 ただ一つだけ。注意喚起を。


 私の目標はあくまで異世界ファンタジーランキングで100位以内に入ることです。無論、達成できた場合はその先を目標にするかとは思いますが、現時点ではランキングだけを見てものを考えています。つまり、当エッセイで語られている戦略の多くは、WEB小説に特化したものとなっているのです。


 しかし私と違って、書籍化を目指している方は多いと思います。


 よく言われることではありますが、書籍というフィールドは、WEB小説と根本的にフィールドが異なります。具体的にいうと、読者層と作品に求められるクオリティが違う。だからWEB小説で有効とされる戦術は、書籍では通用しないばかりか、逆効果となってしまう場合があるのです。


 例えば、長文タイトルが良い例です。

 WEBでは長文タイトルは強力な武器になりますが、書籍では逆にハンデとなってしまいます。なぜなら一般書籍を買うような読者層は、WEB特有の長文タイトルに慣れていないからです。私は元々、書籍を購入する側の人間でしたが、初めて長文タイトルを目にした時は呆れたものです。買う気になど当然なりませんでした。


 昨今では、なろう系というだけで警戒されるようになってしまいましたよね。長文タイトルはその筆頭なので、なおさら忌避されやすいと思います。

 そのデメリットを知った上で、WEBで戦うつもりで長文タイトルをつけるのはいいと思います。かくいう私もそうですから。でも、何も知らずに長文タイトルを付けようとしているのだとしたら、一度立ち止まって、よく考えてみた方がいいのかもしれませんよ。


 どこを主戦場とするのか。どこを目標とするのか。

 戦略は変わってくると思います。


 では、ここで一つ質問です。

 WEB小説を書籍化する場合、商業的に成功しやすい一話あたりの最適文字数はいくつになるのでしょうか?


 WEB小説と同じ2000文字でしょうか? それとも違うのでしょうか?


 あえてここでは言明を避けますが、WEB小説発で売れている小説の平均文字数を数えてみれば、答えに近づけるかもしれません。そしてその時は、一つや二つではなく、できるだけ多くのサンプルを確認してみるといいでしょう。


 ※1 以前、長文タイトルの有効性について書きましたがデメリットもあるよ、ということです。

 ※2 文字数が少ないということはそれだけ描写が省かれるということ。WEBでは好まれるスタイルですが、果たして書籍化した場合はどうなるのでしょうか。

 ※3 出版する際にタイトルの変更が利くのなら、長文タイトルでも問題はないのかもしれません。ただし、タイトル変更に伴うデメリットは別途生じるでしょう。

 ※4 小説家になろうから書籍化される場合は、WEB版をそのまま出版することが多かったようです。ただその一方で、編集者さんと相談の上、内容が大きく変化しているものもあります。そちらに関してはWEB版の文字数は当てになりません。

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