カクヨムの光と闇(注目の作品はすべてを照らす太陽であり、全てを吸い込むブラックホールでもある)

 さて、前回はサイトデザインという観点から、カクヨムというサイトを分析してみました。その際、頭の中で考えていたことを言語化してアウトプットするという作業を行ったわけですが、そのおかげかまた新しいものが見えてきました。


 今回は、カクヨムの光と闇と題して、注目の作品に関してもう少しだけ掘り下げて考えてみようと思います。




 私はカクヨムを利用する以前に、


「カクヨムのランキングって小説家になろうほどの爆発力がないよね」


 という話を聞いたことがあります。

 理由として考えられるのが、小説家になろうとの人口差、そして日間ランキングと週間ランキングという特性の違い。などになるでしょうか。


 ただ私は、これらの理由に「注目の作品」の存在を加えたいと思います。


 前回もお話しましたが、注目の作品はカクヨムというサイトの一等地にあります。誰もが目を通す場所。つまり、ランキングしか見ないような人でも、一度は必ず目を通す場所にあるのです。


 サイトデザインという観点から、注目の作品でどのように視線が動くのか。前回はそのことばかりを考えながら執筆していました。そして気付いたのです。


「注目の作品は一等地にある上、目立つ看板(色付き)でアピールすることができる。ゆえに、強烈な客寄せ効果がある」


 と。


 言い換えれば、強烈な導線になりえているということ。

 そして強烈な導線がトップページにあるがゆえに、本来ランキングへ行くはずだった人たちが吸い取られてしまいランキングの爆発力が弱まっている。


 と、これが真相なんじゃないかと。



 正直、注目の作品を考えた人は天才だと思います。


 他のサイトにはない画期的なシステムです。

 では、注目の作品における読者と作者、それぞれの享受できる恩恵はどのようなものになるでしょうか。


 読者が受ける恩恵。

 サイト内を移動する際に、注目の作品を通ることで、好みの小説が見つけやすくなります。言い換えれば、自然と目にとまる。つまり労せずして、次に読む小説をストックしていけるということ。これにより、本来はランキングを見るような読者であっても、注目の作品を使うメリットが生まれます。あるいは、そうと認識しなくとも無意識のうちに使用することになります。おそらく、そんな彼らのために注目の作品では評価(★)を表示しているのではないでしょうか。


 作者が受ける恩恵。

 ランダムという運ゲーの要素があるとはいえ、誰もが公平に露出するチャンスを得ることができます。これによって、本来ランキングへ行くはずだった読者を引き込むチャンスが生まれます。底辺にとって、他のサイトでは絶対に獲得することのできない読者層を、ワンチャン獲得できるというのは大きなメリットです。



 要するに、読者は効率よく色々な作品を回ることができ、読者が色々な作品に出会えるからこそ、各作品のPVが回りやすくなるのです。つまり、なによりも注目の作品がすごいのは、読者を円滑かつ効率よく各作品へ送り込めるという仕組みにこそ、あります。


 これは私の予想ですが、カクヨムは読者が少ないハンデを背負っていたからこそ、このような仕組みにしたのではないでしょうか。この方法なら、円滑に読者のローテーションを行えるため、人が少ないことを体感しにくくなるはずです。


 しかし、そんな革新的な仕組みの「注目の作品」ですが、弱点もあります。

 それは強烈すぎる導線がゆえに、多くの読者を吸い取ってしまっているという負の側面があるということ。まるでブラックホールかのような強力な重力で、読者を引き寄せてしまっている。だからランキングの爆発力が弱まる。新着小説に人がいない。完結ブーストがかからない。などの問題が発生します。


 つまり、注目の作品で目立つことができないと、他の露出手段が弱体化しているため、ランキングに浮上することは極めて難しい。


 何事も一長一短の側面があります。注目の作品も例外ではないということです。


 ですが、カクヨムの売りが注目の作品である以上、これらの問題を解決することは不可能だと思います。ここは諦めて受け入れるしかないでしょう。


 それでも。


 一つだけ、サイトの設計で納得のいかない部分があります。

 それは完結小説への扱いです。


 サイトデザインの話に戻りましょう。カクヨムのトップページは、


 ①注目の作品

 ②最近読んだ小説

 ③特集

 ④書籍化作品

 ⑤新着おすすめレビュー

 ⑥新着の小説

 ⑦各種コンテスト

 ⑧最近完結した小説


 という順番で並んでいます。

 完結小説の優先度は八番目。新着の小説よりも下に位置しています。

 しかし、完結した小説の扱いが八番目というのは解せません。


 基本的には重要なものほど上部、及び、左側へ配置するのが定石だと前回述べました。その観点から見た場合、完結小説よりも新着小説を重要視していると解釈できてしまうのです。


 小説を書きあげ、完結させるのって物凄く大変です。適当に20万文字書き散らすよりも、10万文字できっちり物語を締めるほうが遥かに難しいし、労力もかかります。にも関わらず、完結小説に対する評価が新着小説よりも下というのは納得がいきません。


 実際、納得のいかない作者さんも多いようです。中には、


「完結する意味なんてないから、人気がでなかったら終わらせるべき」


 と、言う人もいます。

(これは完結が報われないことによるやるせなさから出た言葉だと思います。私もなろう時代に同じ気持ちだったことがありますから、よくわかります)


 実際、ただでさえ過疎っている新着小説よりも更に下にありますから、人通りはほとんどありません。新着小説が裏路地なら、完結小説は街から出てすぐの平原といったところでしょうか。完結ブーストなど夢のまた夢なのです。


 小説家になろうでは、片っ端から新作を書いては打ち上げて、人気が出なかったらそのまま放置という行為が横行しました。ここではその是非については問いませんが、まさか運営さんは、このスタイルを推奨しているなんてことはありませんよね。流石に、それは違うと信じたい。


 私は基本的にカクヨム推しですが、評価は公平にしなければなりません。

 では、使い捨てのような行為が横行した小説家になろうではどうなっているのか?

 確認してみましょう。


 トップページを開いてみると、


 ①月間ランキング

 ②完結済みの連載小説

 ③更新された連載小説

 ④新着の短編小説


 この順番で並んでいます。


 おわかりになるでしょうか?


 小説家になろうでは、完結小説を高く評価しています。だから二番目という目立つ位置においているのです。(完結した労をねぎらう姿勢がうかがえますね)


 ゆえに完結ブーストも起こります。実際、完結からランキングを駆け上がった作品をいくつも見てきました。だからこそ、完結を目指す価値が生まれるのです。


 とはいえ。


 カクヨムでも同じにしろとは言いません。サイトの設計が違いますからね。

 ですが、新着小説よりかは上、もしくは同等の評価があっても良いのではないでしょうか。


 多くの作者が、完結する意味はないと認識すればするほど、未完の作品は増えていくことになるでしょう。完結小説を重視し、完結ブーストが発生しえる小説家になろうでさえ、打ち切りという手段が横行したのです。ならば、完結の恩恵の少ないカクヨムでは、その傾向が更に強くなると考えるのが自然ではないでしょうか。


 そして、完結しないことが当たり前となり、その風潮が広まることは読者にとって害となるはずです。完結作品を軽視する姿勢は、将来的な読者離れに繋がる可能性を内包しているということです。


 読者あってこその小説投稿サイトです。


「後悔したってもう遅い!」


 とならないためにも。

 完結作品を軽視するのはやめて頂きたいのです。


 ※本文中に打ち切りが横行したとありますが、この戦法を使っていたのは一部のランカーの人たちだけです。ランキング上位に上がってきては打ち切り放置するため、相当に目立っていた。ゆえに横行したという表現になっています。ちなみに、ほとんどの作者さんは真面目に書いていますよ。完結ブーストは最後の希望ですから。

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