一人称視点と三人称視点(全ての異世界ファンタジー小説は翻訳されている)

 今回の話は視点(人称)についてです。

 ほとんどの方がご存知かと思いますが、一応簡単に説明しますね。

 なお、事前に改めて調べましたところ、人によって若干、意見が異なるようでした。以下はあくまで、私の見解を含みます。


 〇一人称視点

 登場人物の視点が、そのまま語り部の視点として書かれた物語を一人称視点と呼びます。基本的には主人公=視点主=語り部となることが多いです。語り部の思考をそのまま地の文へ記述することができます。(一人称=俺、私、僕など)


 例)

 ぐぅ、と腹が鳴った。俺は腹に手を当てる。昼食を食べていないことを思い出し、一気にやる気が下がってきた。やってらんねぇ。なんで俺一人が貧乏くじを引かなきゃならないんだ。

 ――――――――――――


 〇三人称(一元視点)

 登場人物ではない第三の視点が語り部となるのが三人称視点です。

 その中でも三人称(一元視点)と呼ばれるこの型は、別名背後霊型とも呼ばれます。読んで字のごとく、登場人物に憑りついた背後霊の視点から物語が語られるのが特徴です。そして背後霊は登場人物の心の中を透かし見ることができます。

 なお、三人称視点のため「俺、私、僕」などの一人称を地の文に使うことはできません。そのため、登場人物の名前を直接記述するか「彼、彼女」などの三人称の代名詞を使用する必要があります。


 例)

 ぐぅ、とリックの腹が鳴った。腹に手を当てる。昼食を食べていないことを思い出し、彼のやる気は一気に下がった。やってらんねぇと心の中で愚痴る。どうしても納得がいかない。なぜ自分一人が貧乏くじを引かなければならないのか。

 ――――――――――――


 登場人物と背後霊との距離によって、心の中の見える割合も異なります。上の例は背後霊が少し離れているイメージでした。ではもう少し、登場人物に背後霊が近い場合はどうなるでしょうか。

(背後霊が背中にべったり張り付き、半分重なっているイメージになります)


 例)

 ぐぅ、とリックの腹が鳴った。腹に手を当てる。昼食を食べていないことを思い出し、一気にやる気が下がってきた。やってらんねぇ。なんで自分一人が貧乏くじを引かなきゃならないんだ。

 ――――――――――――


 こちらはほとんど一人称視点と同じですね。「俺」は一人称なので、使うことができません。背後霊は主人公とほぼ一体となっているため、心の声が地の文にはみ出ています。人によっては、主人公の思考を地の文に混ぜるのは、邪道だというかもしれません。思考を地の文に記述して良いのは一人称視点だけだという考え方ですね。


 また、上記の指摘を防ぐため、心の中の声を直接記述する場合は()で表すこともできます。


 例)

 ぐぅ、とリックの腹が鳴った。彼は腹に手を当てる。昼食を食べていないことを思い出し、一気にやる気が下がってきた。


(やってらんねぇ。なんで俺一人が貧乏くじを引かなきゃならないんだ)

 ――――――――――――


 ()内は登場人物の心の声をそのまま書くことができるので、()内限定で一人称(俺、私、僕)を使うことができます。


 この他にも、二人称視点、三人称・神視点(客観型)や三人称・神視点(多元視点)などがありますが、WEB小説の99%は上記の一人称視点か三人称(一元視点)を採用しているので、ここでは割愛します。興味のある方は、他の方がまとめておられる小説指南書をご参照ください。

(人によって解釈が異なる分野なので、初心者のうちは混乱するかもしれません。なので、自分が信用できると思える人のものを参考にすると良いでしょう)


 また、一人称視点では、視点主(主人公)が知りえない情報を地の文に書いてはならないというルールがあります。それは見えない情報しかり、知りえない知識しかりです。日本という国を知らないのなら、地の文に日本という単語は使えません。なぜなら、視点主の思考・知識=地の文であるため、視点主の知らないこと、知覚できないものは記述してはならないのです。


 もっと厳密にいうと、視点主が小さな子供の場合、地の文に難しい漢字を使ってはならないという制約まで生まれます。なぜなら小さな子供は難しい漢字を知らないからです。


 そしてこのルールを更に掘り下げると、面白いことになります。

 例えば、日本語を話せないアメリカ人が登場人物にいたとしましょう。もしも彼を視点主とした場合、一人称小説では地の文に英語しか記述してはなりません。(そういう小説を読んだことがあります)


 はい。ここで。


 おや? と思われた方いらっしゃいますか?

 勘がいいですね。流石です。

 もしくはタイトルからの連想で、すでにお気づきの方もいるかもしれません。


 このルールを厳格に適用した場合、異世界ファンタジーの一人称視点では、地の文には異世界語を使用する必要が出てきます。なぜなら彼らは異世界人であり、日本語を知らないからです。(転生・転移の場合は除く)


 ですが当然、異世界語なんてものは存在しないし、仮に存在したとしてもそんなものを読める人はいません。実際、書かれているのは日本語ですしね。ですので、すべての異世界ファンタジーは、暗黙的に、日本語に翻訳されていると解釈することができるのです。ちょうど、海外の本を日本語に翻訳して発売するように。


 よくある異世界ファンタジーの指摘に、


「異世界なのに四文字熟語を使うのはおかしい」


 とか、あるじゃないですか。

 ああいうツッコミは、日本語翻訳説を使えば簡単に論破できます。


「いや、だってそれ。日本語に翻訳されたものだから。英語を日本語に訳した時に、直訳しないで、違う言葉で代用することがあるでしょ。あれと同じ」


 とでも言っておけばいいのです。

(もっとも、ファンタジーの世界観がブレるのは事実です。重厚なファンタジー小説を書きたいのなら避けるのが無難でしょう)


 三人称小説でも同じです。セリフに関しては全部異世界語になりますから、「」で閉じられたセリフは全部、暗黙的に日本語へ翻訳されています。三人称(一元視点)の視点主(背後霊)が異世界人なら、地の文も同様です。

(仮に神視点であったとしても、神様が日本語に翻訳していると解釈できます)


 私たちは普段意識していませんが、すべての異世界ファンタジーは、無意識の内に日本語へ翻訳され、そして翻訳されたものを私たちは読んでいるのです。


 掘り下げて考えてみると、なんだか少し面白くないですか?


 とはいえ、厳密に一人称視点のルールを守る必要はないと思っていますよ。子供だから漢字は駄目とか言い出したら、窮屈じゃないですか。というかこれ、名の売れている文芸レベルのプロでさえ、指摘されることがありますからね。高校生なのに語彙力豊富すぎだろ、と読者からツッコまれてしまうのです。


 ですが! ここは自由に創作することのできるWEB小説の世界です。

 無料で読めることがWEB小説の強みであり、最大の武器です。

 お金を払って購入する書籍とは、根本的にフィールドが異なります。


 だからこそ、自由に書けばいいと私は思っています。


 ただ、作法を間違えると違和感を覚えてブラバする人が出てくるので、気を付けた方が良いのは確かなのですけれど。




 はい。ここまできて、実はまだ本題に入っていません。

 びっくりしましたか? 私もびっくりしました。すでに2900文字を超えています。


 週一だからこのまま書いてもいいかとも思うのですが、後から読み始めた人が辛いでしょうから、一旦ここで切りますね。


 次回は視点切り替えと、私が困っている点を話したいと思います。

 ではでは。

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