テンプレを検討する

 注意事項

 当エッセイは、底辺の私がどのような思考で小説を書いているのか。どのような試行錯誤を行っているのか。できるだけ論理的になるよう文章に起こして記述しています。その際、小説指南書の内容であったり、なろうの常識であったり、可能な限り客観的な意見を取り入れ、根拠を示すように意識はしています。


 しかし、今回はかなりズレたことをやっています。参考にするのは大変な危険が伴いますのでご注意ください。

 おいおい、めちゃくちゃだな! と、笑ってみるぐらいが丁度いいのです!

 ――――――――――――――――――――――――


 さて、現在私が執筆している長編小説の属性を一言で表すなら「成り上がり」の系統に属します。


 私は、WEB小説は読むよりも書いている時間の方が圧倒的に長く、小説家になろうの利用期間は長いですが、読書量はそこまで多くありません。特に、小説家になろう時代後半はエッセイの類ばかり読んでいました。横書きの文章を追うのは辛いので、サクっと読めるエッセイをメインにしていた感じです。

(縦書きの紙媒体の小説なら長時間に渡って読めるんですけどね)


 そのせいか成り上がりのテンプレを忘れてしまっていました。

 正直、一ミリも覚えていません。というか、下手すると成り上がりのWEB小説を最後まで読んだことがないかもしれません。


 そういえば、最近では成り上がり系の作品を見かけなくなったような気がします。小説家になろうのランキングを覗いても、それらしきものは見当たりません。もしや時代遅れなのか? とも思いましたが、今更内容の変更はできません。すでに15万文字のストックがあります。


 あるいは、成り上がり単体のテンプレはそもそも存在しない可能性があります。例えば、転生+成り上がりとか、悪役令嬢+成り上がりとか、追放されてからの成り上がりとか、そういう複合的なパターンの可能性が考えられるのです。


 実際、キーワード「成り上がり」を指定して、総合ポイント順でソートしたところ、それらしい結果となりました。つまり、「成り上がり」単体のテンプレは存在せず、私の小説でテンプレを使用することはできないということです。

(もしかするとあるかもしれませんが、少なくとも私はそう結論付けました)


 そこで私は、覚えている範囲の他のテンプレ作品を参考にして、第一話を書いてみることにしました。(人はこれを魔改造と呼びます)


 私はWEB小説はほとんど読みませんが、一話~五話ぐらいまでは読みます。ランカーの人たちはどんな感じで書いてるのかなーと軽い気持ちで見るわけです。

 なので、いくつかのテンプレ展開はなんとなく頭の中にあります。


 昔読んだプロの方が書いた小説指南書にはこうありました。


 ――冒頭から物語を動かせ。

 要するに、読者の興味を引いて物語に引き込めということです。


 確かそのとき、例にあげられていたのがミステリ小説における格言。


「冒頭で死体を転がせ」


 だったと思います。たしかに、冒頭で死体が転がっていたらなんでだ? となりますよね。それだけで興味を引かれますし、この死体がどう本編に関わってくるのだろうという想像力も掻き立てられます。


 冒頭から物語を動かすという観点から見た時、テンプレ作品の中にもいきなりロケットテンプレスタートしている作品があることに思い至ります。


 例えば、

「〇〇、おまえとの婚約を破棄する!」

 とか、

「無能のおまえは必要ない。パーティから出て行ってもらう」


 これらのセリフを冒頭に持ってくるパターンが数多く存在します。

(冒頭ではなく一話の中盤に持ってくるパターンも数多くありますが)


 つまり、見せ場であるイベントを出会い頭の鼻先にぶちこんで、読者の気を引くわけですね。そしてこれからお約束の展開が始まりますよ、と暗に示しているわけです。訓練された読者はそのセリフを見ただけで「婚約破棄の話だ」「追放ものの話だ」とわかるのです。(遅くとも、一話の間には明示されます)


 そしてまた、小説家になろうでは、


「なろう小説において、主人公の敗北は許されない。許されるとしたら第一話においてのみである」


 という、誰が言い出したかわからない格言まであります。


 なろう読者はストレス展開に弱いとする説です。これは実際、自分の小説でやってみるとわかるのですが、フォローが飛ぶように剥がれていきますので、悲しきかな事実であります。そして同じWEB媒体ですので、おそらくカクヨムでも同じ傾向にあるのではないかと推測しています。

(もちろん例外はあります。例えば、ループものの場合。あれは後の成功が約束されていますし、道中が辛ければ辛いほど、強烈なカタルシスを得られます)


 この格言が反映された結果なのかは定かではありませんが、テンプレ展開では第一話の内に、ネガティブな要素はすべて詰め込んでしまいます。


 例えば、

 婚約破棄→追放、もしくは、婚約破棄→処刑とか。

 パーティ追放を言い渡される→打ちひしがれる主人公の描写など。


 そして後は、主人公のターン、もうストレス展開は終わりだよーとなるわけです。どん底に落ちたものの、この先は登っていくだけという期待があるので、読者は離れないんですね。


 これらを考慮し、私の作品に使えそうなテンプレ要素を取り入れます。


 まず冒頭で何かアクションを起こすべきでしょう。

 しかし、お決まりのセリフは使えません。例にあげたセリフは婚約破棄テンプレと追放ものテンプレであり、成り上がり用のテンプレではないからです。あるいは、婚約破棄+成り上がりとか、追放+成り上がりと複合すれば使用可能となるでしょう。けれど、私の作品はそのいずれでもありません。


 とりあえず、先の例に習って、一度、主人公を落としてから持ち上げるパターンにしましょうか。主人公が苦渋を舐めるのは第一話でしか許されませんから。やるなら今しかありません。


 成り上がりものの王道展開としては、


 ①無能、もしくは平凡な主人公だと周囲には認識されているが、実は実力を隠しているだけ。ひょんなことから実力がバレてしまい、周囲を見返していく。

(WEB発ではない商業用の小説でもよくあるパターンですね。まさに王道です)


 や、


 ②どん底だった主人公が何かのきっかけで成り上がり始める。

(昔話によくあるのは、こちらのパターンですね。これも王道です)


 というような展開になるでしょうか。

 ①は実力で、②は何かしらの外部的要因(幸運、チートなど)で成り上がる感じでしょうか。


 私の作品の場合は、①と②が半々といったところです。


 どちらの展開にせよ、主人公の評価が低いことを表現する必要がありそうです。

 成り上がり系の物語は、スタート時の主人公の身分が低ければ低いほど、上昇する過程が気持ちよく感じられますから。


 色々と考え、熟考した末、以下のような書き出しにしました。

(タイトルやあらすじで成り上がりであることを強調するのが前提です。でなければ読者が逃げてしまうでしょう)


――――――――――――――――――――――――――

「適性属性なし」


 それは死刑宣告のようだった。

 立会人である六人の女教師たちが一様にざわめき立つ。


「前代未聞ですわ」

「適性属性なしなんて因子継承の観点からみてもありえませんよぉ」

「これは困りました。どうしましょう」


 ここは最強種である龍人族りゅうじんぞくの運営する学園。

 中央龍皇ちゅうおうりゅうこう学園にある聖殿せいでん――儀式の間である。


 聖殿の中央には、魔術式の刻まれた大きな鏡が台座の上に置かれている。

 手をかざした者の適性属性を映し出すその鏡面には、しかし今、何色も映し出されていない。無。ゆえに適性属性なし。それが教師たちの下した判断だった。


 そしてそれは無能の烙印らくいんでもあった。


「嘘……だろ……」

――――――――――――――――――――――――――


 なんだかテンプレっぽくなったような気がします。

 こんな感じのテンプレを見たことがあるような気さえします。


 え? ないって?

 いやいや、多分似たようなパターンありますよ。


 ファンタジーに鏡はつきものですし。

 ほら、白雪姫とか。あれは童話? すみません。


 でも、鏡を使うかどうかは置いておいて、水晶を使ったりとか、あとは神託が下されるとか、細部は異なるでしょうが、何かしらのアクションにより主人公が無能だと断じられる話は、数あるテンプレの中にもあったはずです。うろ覚えですが。


 この後、第一話の間に聖殿から追い出され、落ち込んでいるところをヒロインと出会い、立ち直るきっかけを貰うというところまで書いています。

 罵倒された上で追い出される。テンプレですね。追い出されることで不遇を強調するわけです。そして落ち込んだところにヒロイン。王道であり、テンプレでもありますね。


 うーん、こう書くとやっぱりテンプレできてる気がするなぁ。


 ――テンプレのキメラかな?

 誰ですか? 心の声漏れてますよ。


 なお、これは小説家になろうに投稿した短編「龍人族の公主様」が不評だったため、大幅リメイクを行い、冒頭を書き直した際の工程です。その結果、タイトルの見直し、あらすじの見直し、導入の見直し、話数の追加となったのでした。


 今回はこの辺で。


 ではでは。

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