「武装して心霊スポット~十三目~」

低迷アクション

第1話



 「“田代(たしろ)”がいねぇぞ?」


バイザー越しだが“山口(やまぐち)”の切迫した顔は、声質と加えて、よくわかる。

だが、今は…


「オイッ、戦闘中だろ?静かにしろ。じゃねぇと…あっ、痛っ…イタタタ!ヒット、ヒットォオオ」


2010年、夏頃の話である。


友人“T”の先輩でもある“佐山(さやま)仮名”はいわゆる“野良サバゲ―”を他県の森で楽しんでいた。


7年後に改定されるエアソフトガンの使用等の法律により、現在はほとんどいない……

と思われるが…


野良サバゲ―とは、公式のフィールドでゲームを行わず、国や他人の土地で違法にサバイバルゲームをする事だ。


これらの行為は近隣住民とのトラブルや、火の不始末などで、山火事を起こす等の事件に繫がる事もあり、違法となっている現在でも、事件の報道を聞く事がよくある。


佐山達、メンバーも、理解はしていたが、制約の多い(BB弾の威力制限や、フルオート

射撃の禁止、フィールドごとの独自ルール等々)公式戦を嫌い、誰も来ないような、森の奥深くでルール無制限のゲームを楽しんでいた。


その最中の事である。


「一回、タンマ、中止、中止―!」


佐山の言葉が眼前に広がる緑の群れに響く事数秒…全身に葉っぱと魚網をつけた者や迷彩服に固めた3つの影が、佐山達の前に現れる。


「どうした?昼はもう食ったろ?」


「いや、田代が消えたっぽい…そうだろ?山口」


「俺の後ろでFA-ⅯAS構えてた。お前等のバック取るって、迂回して、向こうの木ぃ

行って、それっきり…ゲーム開始中からみれば、もう40分は消えてる…見てないか?」


「いや、俺等の後ろは“川島(かわしま)”がSVⅮ持って、スナイプ陣取ってたからな。なっ、川島…」


「フフッ、的は見逃さないよ~?」


「生こいてる場合じゃねぇっ、何処行ったか、心当たりは…?」


「‥‥」


イラつく佐山の言葉に、敵チームも事態を呑み込めてきたようだ。しかし、携帯は圏外…

無線なんてモノは持ってない。落盤事故を考えたが、木が並んでいるとは言え、平坦な地区を選んでいるつもりだ。


民家からは、離れすぎているし、助けを呼ぼうにも…と思った所で、敵チームのリーダーである“中津川(なかつがわ)”が手を上げる。


「なぁっ、入口手前で会ったオッサン、ここらに住んでるって言ってなかったか?」


「あっ、そう言えば、言ってたな。そうだよ、佐山達の後ろの方…あったよな?建物…」


メンバー達の言葉を聞くにつれ、佐山の記憶も鮮明になっていく。そう言えば、確かに森の入口で中年男性に声をかけられた。


通報されても面倒なので、トレッキングと適当に答えてはいたが、男性は、あまり気にする事なく、自分達を見送った。妙に人懐こい様子の笑顔は、気にはなっていたが…


(ただの人恋しいオッサンだが、少しは助けになるか…)


迷う暇はあまりない。考えは決まり、5人の迷彩服の集団は、隠れてこっそりのサバゲ―も関係なしに、田代の名前を呼びながら、森の中を進みだした…



「この場所を選んだのは、俺なんだが…」


木が少し開けた先には、蔦に絡まれ、今にも崩れそうな建物があった。入口のドアは錆びて半開き…全員が無言で頷くと土足のまま、中へと入る。道途中から軍用ブーツの足跡がドアの中へと続いていたからだ。


田代の事だ。移動の途中で、丁度いい廃墟を見つけ、中へと偵察を試みたのだろう。まるで、宝物を見つけた子供だ。いや、子供心が抜けないからこそ“戦争ごっこ”なんてやっているのだが…


黴と腐った木の床を踏みしめる途中で、山口が上記の台詞を呟き始めた。


「今は何処も俺達みたいな、違法野郎にうるさいからな。場所の選定は難しい。そこで、考えた。人が来ない場所でやりゃあいいと………で、選んだのが」


「ここだって言うのか?」


「ああ、6年間に1人、1年に1人が、この森で消えてる。だから…」


「田代が消えたら、お前の責任な」


「えっ、オイ!」


驚きたいのはこっちだ。辛辣な言葉を投げてしまう事に、納得な光景が室内には、広がっている。


「なぁっ、この匂いと、あの赤いの…」


「テキサスチェ〇ンソー、ホ〇テル?映画で観たあれ?ウッ…」


「知るか。おい、吐くな。川島…」


中津川と川島を叱咤できたのは、幸運だ。じゃないと、佐山自身がどうにかなりそうだった。


台所、テーブル、書棚のあちこちにモザイクをかけたい、何か“肉”が散乱していた。そして、極めつけの…


「な、なんだ?…あの白いの」


7つのホルマリン色の瓶に入った13個の白い球体…1つ以外は2つずつ…


仲間のブーツが立てた振動で、それらがひっくり返り、ギョロンとした黒2つの、人間の瞳が、こちらを見た時は全員が悲鳴を上げようとし、


佐山の血走った眼光に睨まれ、どうにか口を塞いだ。


「何・か・聞・こ・え・る。音立てずに前進…」


瓶が並ぶ棚の奥…隠れるように、聳える半開きのドアから、ささやき声が漏れていた。メンバーは、ゆっくりと頷きあい、足元に散らばる肉を避けながら、ドアに進む。


そして、声が、ハッキリ聞こえる距離になった頃…


「今日…本当に幸運…だ…君にわかる…かい?あと、一つ…14個の目で…

足りる…まさか…最期の1人が片目を病んでいるとは知らなかった。


あの時は神に裏切られた気持ちだったが、今は試練だったとわかる。君のような好奇心旺盛で若い、健康的な目を手に入れる事が出来たんだから」


全員が、低い声の主が、森の入口で会った男性だと理解した刹那、佐山がドアを蹴破り、

悲鳴のような、咆哮を上げる。


扉の先は消毒液の臭いが充満した中央のテーブルが聳え、そこには、瞼を閉じた田代が載せられ、彼女の目元にメスを近づけんとする老人を認めた瞬間、怒声をそのままに、佐山が男に飛びかかり、勢いよく突き飛ばし、横から飛び出た山口が田代を抱え、出口に向かう。


他のメンバーはとっくのとうに逃げ出していた。


「邪魔するな。私…ジャマを…」


「ウっせ、ウッセ!死ね、死ね!!この野郎」


訴えるような、男の声とガス銃の発砲音…バイザーや装具無しでは、致命傷レベルのパワーを持つ代物を、佐山が撃ち続けている。異常な状況だが、山口の理性が、彼の肩を掴む。


「オイッ、やりすぎだ。ずらかろ…」


踵を返した山口は、佐山の肩を掴みながら、室内を確認した時、全身に怖気が一気に走る。


両手を振り回し、BB弾を払う男性…その後ろに立つ異様な細さの女…彼女の両の目は、ポッカリ黒い穴が開き…到底、生きた者とは、とてもじゃないが容認できない…


「ワアアアアアッ」


絶叫と共に、射撃を止めない佐山の行動を、事実と共に理解した。


「けいこ?…けいこなのか…良かった…ずっと、ずっと待っていた…」


山口の視線に気づいた男性は、後ろを振り返り、死体女の名前(?)を呼び、愛おしむように両手を広げる。


その中に倒れ込んだ女が真っ黒い口を開けて、男性の喉笛に食らいつく…までが限界だった。


後ろで絶叫と崩れる轟音…


男性の


「やっぱり…13じゃ、不完全…13ではあああ…」


と言う声を背に受けながら、2人は建物から脱出した…



 「後で聞いたら、田代さんは建物を見つけたまでは、覚えているが…ハッキリしないらしい。廃墟みてぇに老朽化してたから、先輩達の乱痴気で、崩れたんじゃないかって話だった。


“時効消滅から4ヵ月の年だが、勘弁してくれ”


先輩の口癖だ。だから、この辺書くなら、上手くやってくれ。先輩達が観たモンに関しては

好きに書いてくれってよ。ただな…」


「‥‥?」


Tはそこまで喋り、少しおどけたように口を歪ませる。


「何だか皮肉だな。13個の目に…13年後に先輩達の話をする…全部13、13…死刑台の階段の数も13…関係ないと思うけど…やな事が起きなければいいな」


Tの言葉を苦笑いで受け流す。これを書き、投稿するサイトも13周年なのだが、これは言わないでおこうと今、決めた…(終)

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