#12 「パイオニアだ」

 ――――とある休日。


「やっぱり動画サイトと言えば無軌道で場当たり的な視聴だよね」


 暇な時間に何も考えずおすすめに表示される動画を気になるものから見ていく。これこそ休日のダメな過ごし方。最高。

 こうやって視聴した動画の内容はほとんど頭に残らず体力もあまり使わない。


「次の動画は……ん?」


 次の動画ページへ自動的に移動した。


「あれ? ちょ、まって。え?」


 俺はずっと歴史が違う世界とはいえ大枠は変わらないと思っていた。だが、どうやらは勘違いだったようだ。


 画面に映っているのは転生前の世界で"バーチャルワイチューバー"と呼ばれていた者と酷似した存在。

 2Dのイラストを用いて仮想のキャラクターを作り、声をあてることで完成する。これ自体はなにもおかしいところはない。問題は時期だ。


「早くない?」


 そう、早すぎるのだ。

 俺の想定ではあと5~6年ほど先に現れる存在。少し先のことだと思っていた。

 動画を見たところ作りはまだまだ拙いが、慣れていけばあっという間に良くなるだろう。更に目新しさゆえか、動画視聴回数も数時間で5桁以上。


「少し調べてみるか」


 他にもいないか色々と調べた。結果、先の人以外にはいなかった。まさしく彼女はこの世界における先駆者。


「1時間後に初配信……見てみようかな」


 風呂掃除にトイレ掃除で時間を潰すことにした。掃除をしながら彼女のチャンネル紹介を思い出しながら心を躍らせる。

 もしも彼女が個人で作っているのならバックグラウンドも聞けるかもしれない。マニアックな技術トークを聞くのは面白い。全てを理解できなくとも夢が膨らむのだ。


「時間が余ってしまった」


 まだ30分ほど時間がある。配信が始まるのは15時だ。

 そういえば15時はおやつの時間。冷蔵庫内の消費期限切れ間近の食材があるのを思い出し、サンドイッチの具材にすることにした。









 ******……







 ――――配信開始




「おはようッ! 見習い研究員諸君ッ! ソフトウェア開発兼ガジェット開発兼アモウ研究所責任者の天羽 ハナコだ。……えーとカンペカンペ」



【おは、オイ】

【イラストを動かしてるのか】

【カンペ……】

【途中までの勢い返して】

【動画から来たぞ】

【兼任多いな】

【俺達は見習い研究員だった?(無職】


「……ふむ、カンペはこうだ」


 紙を破るような音が複数回。


【破り捨てちゃった】

【アドリブはいりまーす】

【ビリビリぃ】


「スッキリ! ヨシ! さて、まず諸君に聞きたいことがあるのだが……動画は見てくれたか? だいたいあれに今後の活動内容やらを盛り込んでいる。今回の配信でもおさらいはするがね」


【見たぞ】

【バーチャルなんたらって行ってた記憶(うろおぼえ】

【個人開発のソフト云々は見た】


「結構結構ッ! 私の動画および配信では実写の顔出しは無しだ。基本的にこの可愛らしい2Dイラスト用いた配信形態が主となる。ああ、ここで一つ予言しておこうか」




 ――――これから先の未来、バーチャルワイチューバー配信は大人気コンテンツになるだろう。





「言ったぞ? 私は言ったからな。これで私はこのコンテンツのパイオニアだ……グフフ」


【漏れてる漏れてる】

【隠しきれてないぞ】

【古参ヅラさせてもらいますわ】

【じゃあ俺も実質パイオニアってこと!?】

【たまげたなあ】

【ほんとかあ?】


 間違いではない。

 彼女自身が大成するかはともかくコンテンツとしては流行するはずだ。


「たぶん。きっと……ちょっと自信なくなってきたぞ」


【ダメみたいですね】

【どっちなんだい?】

【動画じゃあんなに堂々としていたのに】

【(本番に弱い人だ)】


「口から出ちゃったものは仕方ない。出ちゃったんだから。では気を取り直して引き続き自己紹介だ。画面に出していくぞ」


 キャラ設定

 ・研究者

 ・美少女

 ・自信家

 ・ソフト開発

 ・ガジェット開発


「間違えたッ! こ、こここっちィ!」


【ブフォ】

【そこにドジっ子も追加しとけ】

【かわいい】

【めちゃくちゃだぜ】

【ドジっ子路線でいかないか?】

【段取りの重要性】

【どうやらカンペは必要だったようだな】


 わざとなのか。素でやっているのか。

 2Dイラストの動きはカクカクとしているものの表情が非常に細かい。声から感じ取れる感情とリンクしている。


「ふぅ、というわけで自己紹介は終わりだ。次は今後オープンソースソフトウェアとして公開する予定のコレについて説明しよう!」


 せわしなく動いている2Dイラストが画面中央にズームアップ表示される。


「まずこのイラストを動かしているソフトウェアの名は"2Dうご君"だ。覚えておくように」


【ね、ネーミングセンス……】

【すごいはずなのにしょぼく見える】

【オープンソースって本気か】

【え、これ公開するの?】


「もちろん。コンテンツの拡大を目指すならそのほうがいい。今の状態でもかなり使いやすいが、他の人がプラグインやら作って更に扱いやすくできるよう拡張性ももたせているぞ」


【ふ、ふーん】

【(すごくね?)】

【え、個人開発なんすよね?】

【さっきからニヤニヤしてるのバレてるぞ】

【なんか口角上がってないか?】

【どんどん上がる】

【どこまで上がるの】

【ちょっと待って】

【口角が顔の外に】

【画面からはみ出るぞ!】

【バケモンじゃねえか!】

【腹痛い】

【なにその機能】


 お腹が痛い。笑い過ぎて痛い。遊びがあり過ぎる。


「おっと思わず口角が上がってしまったようだ。ポチッと」


 スッと口角が元の位置に戻る。


「と、まあこんな感じのネタ機能も搭載してるからマニュアルはしっかりと読み込んでくれ。……一応言っておくがネタ機能のページ以外も読むんだぞ?」


【よむよむ】

【取説読まない派なので】

【取説は舐めるように読む派】

【面白そう】

【早く使いてえ】

【公開いつなの】


「ぬははッ! そう焦らなくとも公開するとも。この配信が終わったらすぐにな! これからも色々なソフトやガジェットを紹介するからチャンネル登録頼むぞ! 褒められないとしなしな萎れてしまうんだ私は」


【はっや】

【有能】

【チャンネル登録しました】

【登録しといた】

【しなしなハナコ】

【がんばれハナコ】

【ハナコォ!】

【水と肥料入れておきますね(チャンネル登録)】


「それでは見習い研究員諸君ッ! さらばだ! また明日な!」


【おつかれ】

【また明日】

【配信予定の通知来た】

【明日もあるのか】

【仕事が早い】

【おつかれい】




 ――――配信終了









 ******……








「チャンネル登録っと」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

TS転生した元男が演奏系配信者として稼ぐ話 深空 秋都 @Akito_Shinku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ