#11 「太り気味」
「あ〜疲れだぁ〜」
【弾きすぎ】
【メンタル回復】
【何時間弾いたの】
【配信時間4時間ですねえ】
【休憩挟んだとはいえやり過ぎでは】
【オリジナルオンリーでこのボリュームあるのやば】
【最近の小学生はすごいなあ】
【この子を平均的な小学生と思うのは無理がある】
【人生2周目の可能性】
【ぎ、ギターさん……】
背もたれに身体を預けてぐったりとしている中、冗談だとは思うが核心を突くコメントが見られた。まあ本当に人生2周目と言ったところでネタにしかならないだろう。盛り上がると考えればアリな選択ではあるが。
「ちなみに全曲完走した感想ですが……めっっっっっちゃ、疲れました」
【知ってる】
【はい】
【それはそう】
【大人でもキツいって】
【おじさんなら倒れちゃうね】
【数曲で終わる予定が煽られた結果、こうなるとはね】
【煽り耐性ゼロ】
【実質カロリーゼロ】
【配信中に食べたものは実質カロリーゼロってこと!?】
【たまげたなあ】
【トンデモ理論やめて腹痛い】
「……体力つけないとですねー」
正直なところ精神的にはあまり疲れていない。それよりも身体的な疲労が激しい。
「筋トレ? いやランニングをもうちょっと?」
【目指せマッチョ?】
【目指すのか。世界最強を】
【飛躍しすぎだろ!】
【本当にギターさんにならなくていいから】
「マッチョですか」
頭の中でボディビルダーの首から上に自分の顔をくっつけてみる。
「ぶふぉっ! ゴホッゴホッ……ふーっ。ぷくくっ」
【想像したな】
【わかりやすい】
【すまん茶吹いた】
「ふふっ。ごめんなさい。思わず笑っちゃいました」
致命的なまでに似合わないマッチョな自分。笑いを堪え過ぎてお腹が痛い。
先に想像したような姿になったら義母も大笑いするに違いない。そのあたりの感性は結構似ている。
「ま、ぼちぼち朝ランニングで体力つけていきますよ。子どもの成長は早いですからねー」
【大人みたいなこと言うじゃん】
【健康的でいいね】
【家庭的で健康的なギター少女とかいう最強の存在】
【努力家過ぎる】
【見習っていけ】
【毎日食っちゃ寝してる場合じゃねえ!】
【えらい】
「手が暇なので弾きながら話しましょうか」
さすが若々しいボディ。体力の回復が早い。少し雑談している間にぐんぐん回復していく。
「っしょっと。んー……こんな感じかな」
転生前の時代。暇な時に半ば無意識で弾いていた曲を選ぶ。
「思い出してきた。よしっ、じゃあ雑談の続きですねっ!」
【これもうジャンキーですよ】
【さらっと何を言ってるんだこの子は】
【その運指難しくない……?】
【暇とは】
「雑談の続きですねっ!」
【圧がすごい】
【負けたよ】
【完敗だ】
【強引なのも悪くない】
【ご趣味は?】
【押しが強い】
【お見合いかよ】
「趣味はギターと家事全般とぉー、お世話?」
義母の世話をするのが日課となっているものの苦と感じたことはない。むしろ可愛いまであるかもしれない。
「あとは配信。今やってますね」
【お世話する側なんだ】
【家事全般と聞けば想像はつく】
【配信はいい趣味ですね】
【配信なら毎分毎秒やっていいぞ!】
【じ、人生エンジョイ勢だ】
【俺には眩しすぎる】
他には何かあっただろうか。思い出そうとするも特にこれ以上は思い出せない。
「そろそろ曲が一周するので違和感なくループしますよー」
曲の切れ目が分からないほど自然な流れで曲の頭に戻る。
「ふふっ。わかりました?」
【あまりにも自然な流れ】
【分かったけど分からない】
【言われないと分からないね】
【可愛らしく聞いてくるじゃないの】
【気づかんかった。次も頼む】
「次からはループするタイミングでも何も言いません。気付いた人は褒めてあげます」
これは転生前に推していた女性アーティストが配信でよくやっていた雑談中のミニゲームだ。
俺もよく「今ループした!」と年甲斐もなくはしゃいでいたものである。逆にやる側になるとは夢にも思わなかったが。
(そろそろループする頃だな)
【替わった!】
【ループっ!】
【き、気づけねえ】
【よくわかったな】
【雑談に気をとられていたぜ】
「よく気付きましたね。〇〇〇さん、〇〇〇〇〇さんっ! すごいですね! よく気付けました!」
【フッフッフッ】
【ガハハ】
【羨ましい】
【なんてことないミニゲームなのに】
【年甲斐もなく熱中しちまった】
【おじさん悔しいよ】
【お姉さんも悔しいよ】
「雑談配信の時はちょくちょくやるので今回気付けなかった人もまだまだチャンスはありますよー」
【マジですか】
【次回も見に来る理由できたな】
【最初から毎回見てますけどね(古参ヅラ】
ミニゲームを楽しんでくれている人も多いようだ。ありがとう前世の推し。
これからも楽しんでもらえるように前世で流行していた簡単な遊びを先行導入していくのもアリか。
「楽しんでくれてなによりですけども……メインはギター演奏なのでそこはお忘れなく。あ、でも料理とか家事系の動画も見てくれると私が喜びます」
【りょーかい】
【ちゃっかりしてるなあ】
【配信終わったら見てみるか】
【登録しとくね】
「登録ありがとうございますっ! ではラスト1曲弾いたら終わりますね!」
【ぬわにっ!?】
【もう終わるのか】
【もう(5時間)】
【楽しい時間は一瞬だ】
【なんてことだ】
【お姉さん寂しいよ】
いつもの反応だ。俺自身も今回は楽しかった。次回以降も疲れすぎない程度にやっていこう。
******……
「と、いうわけで当面はスタミナをつけようと思います」
「?」
「走ろう。お義母さんも」
にっこりと義母に笑顔を向けてサムズアップ。
「在処さん……?」
「走ろう?」
今度は義母の脇腹をつつきながら。
「……はい」
「お義母さん最近買い食いしてるね? 大人だし悪いとは思わないけど食べ過ぎ」
義母には栄養バランス含め満足感のある美味しい料理を提供している。が、ゴミ箱に入っているコンビニの袋から突き破るように飛び出た串。こいつぁダメだ。
1~2本ならともかく4本。1日3食プラスこれは太る。絶対太る。
「あの、でもこれは……」
「期間限定で美味しかったんだよね? 気持ちは分かるよ」
「あ、在処……ッ!」
理解を少しだけ示すと目を輝かせる義母。
「でもダメ。期間限定は年中やってるんだから惑わされちゃだぁーめ!」
「……はい。それにしても在処よくわかったね」
「ゴミ袋から突き出そうになってたからね。誰でも気付くよ」
それにゴミ袋だけではない。情報源は他にもある。
「佳代さんからもこっそり教えてもらったからね」
「ぐぬ……そこまでバレてたんだ。というかいつの間に」
「と、いうわけで走ろっか」
「……はい」
最近太り気味の義母というちょうどいいランニング仲間を見つけることに成功。ナイス佳代さん。
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