第32話 小休止、両親との不仲について。
僕は、アブラギッシュの隣に座った。
「やあ、君は新入りだね」
「ウイ、朱雀と言う名前よ」
僕はかなり緊張していた。この威圧感はどこかで感じたことがあった。
アブラギッシュは、シャンパンを一口飲むと、嫌に真面目な顔をしてグラスを蛍光灯の方にかざした。
「俺の家は代々軍人だったんだ、だからたくさん人を殺している」
僕は黙って頷いた。
「俺自身も、前世で人をたくさん殺しているらしい」
「ウイ」
「俺は、それを心から悔やんでいる、俺というか俺の魂が悔やんでいる」
僕はアブラギッシュの目を見ながら次の言葉をまった。
「しかし、仕事場でも家庭でも決して弱みを見せることはできない。
弱みを見せたが最後、背後から撃たれるからだ。軍人というのは常に強くなくては、部隊を統率できないものなんだ」
頷くことしかできないけれど、僕は真剣に聞いていた。
「しかし、俺は、この店ではただのアブラギッシュなエロ親父でいられる。ラムママは、平気で俺にとって耳が痛いことを言う。そんなことを言ってくれるのはこの店だけなんだよ」
「イエス」
「誰にも言ってないが、俺はモータースポーツのファンで、それをいじる為に、わざわざママはフェッラーリ・フォーミュラワン®・セレブレーションボトル2015年なんていうシャンパンを仕入れてくれているんだ」
「ところで、君の父親はご健在か?」
「ノン、父も母も亡くなりなったわ」
「そうか。俺の両親も亡くなったよ、でも、またどこかで出会えると信じている。
次の人生で。それは友達の形かもしれないし、親子かもしれないし、恋人かもしれない」
「ウイ」
「俺は、神も仏も信じてるし、生まれ変かわりも信じている。だが、それは心の中だけのことだ。社会で組織を統率して、部下を動かして、目的を達成する為には、いろんな権威をいう鎧を幾重にも身につけて、部下を威圧しなければならない。そこでは神も仏も、無用のものだ、俺自身が神にならないと、組織をまとめることは不可能なんだ」
「はい」
「大人になるとはそういうことだ。しかし俺のこころの奥は、今でも子供のままなんだよ。この店に来る時だけ、俺は子供の魂でいられるんだ。だからこの店に通う」
「おじさまは、ご両親とは仲良かったの?」
アブラギッシュは首を横にふった。
「いいや、憎んでいたよ、何度も殺してやりたいとも思った、しかし自分が親になり、最悪な親も、ただ未熟なだけだったんだと、理解できるようになった、君は両親と仲はどうだったんだ?」
「ウチは、偉大すぎる両親の為に、自分を卑下して、命を断ちたいと思ったわ」
「そうか、その気持ちはよくわかるよ、きっと俺の親が出来た、常識的な親だったら、
君とこんな話はしなかっただろう、俺も君も多かれ少なかれ歪んでいるんだろうな、案外、似たものなのかもしれない」
「今でも、お父様を憎んでる?」
「もう憎んでいない、憎めなくなった。俺はすでに自分の親が死んだ年齢を超えてしまったよ、外では威張っているが、本当はいつまでも母ちゃんのおっぱいが恋しい、ただのガキだ。俺がこんな半人前なのに、親にだけ完璧を求めるなんて、無理な話じゃないか」
アブラギッシュは少し笑った。
「私も父親を許した方がいいかな?」
「できたら、許してやってほしいな、時間がかかっても、父さん、後悔してると思うよ」
そのうち、ラムがやってきた。
「あーら、まるでお通夜みたい。うちの若い子、何か失礼なこと言いました?」
ラムはにっこり笑った。
「ラムママには敵わないな」
アブラギッシュは笑った。
「朱雀ちゃん、この社長さんは、本当はとっても怖い偉いかただから、外で会ったときはきちんとするのよ」
「はーい、ママ、わかったわ」
僕は元気に答えた。
続く
機械仕掛けの魔監獄は、転生月夜より覚醒する。 鈴鹿 一文(スズカカズフミ) @patapatapanda
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