第9話
どうも、お嫁さん(メンバー)探しをしていたはずが気づいたら弟子志願者が現れて困惑しているウォル・アクランドです。
「弟子って……何の?」
予想外の事態に口から出てきた言葉はシンプルな物だった。
実際、俺は弟子を取れるほど収めているものはない。狩人のスキルだってごくごく一般的な範囲だ。
……もしかして、カナさんは師弟関係シチュが好きな人なのかな? そう考えればすべてが繋がる。
「繋がりませんから」
鋭いツッコミが横にいる小さな頭から放たれる。
頭部しか視界にかすらないためとても小さいと推測される。
「小さくしてあげましょうか?」
「ノ、ノーセンキュー……」
最近、考えていることを的確に読んでくるエレミアさんが怖いです。
満面の笑みで杖を高々と持ち上げるのはやめてほしい。脅迫です。
昨今暴力系ヒロインは流行らないのに。
「え、えっと……」
俺とエレミアの会話――以心伝心ぶりに狼狽を隠せないカナさん。
傍目から見ればエレミアが一方的にツッコミを入れているのだから当然の反応だ。
「エレミアの事を放っといてください。エア友達ってやつですから」
「私はそんな特殊な趣味は持っていないです!」
「その発言、世界のエア友達愛好家さんに喧嘩売りやがったぞ!」
エア友達を嗜む紳士としてこの小娘の言動を許すわけにはいかない。
つーか、ボッチ人生を送ってきたことは薄々わかっているからな。
「哀れなウォルさんはわかりませんが、私はエア友達なんて必要としませんでしたから」
「嘘つけ! 人との接し方とか距離感とか経験ないの丸わかりだっての!」
「はっ!? ウォルにだけは言われたくないんですが!!? そもそもどこらへんで感じたんですか!!?」
「ナチュラルに上から目線だったり、頼み方を知らなかったり、何か見つけたらわざわざ報告しに来るところだよ! 話を聞いてくれる優しいお兄さんと出会えて良かったですねえ!」
「な、ななななな別にそれくらい普通ですよ! ねっ!?」
「え、えええっと……う、うん」
いきなり振られ、勢いに押されたカナさんがうなずく。
確かに今の特徴だけなら決定打にならないかもしれないが、実際に対面している俺にはひしひしと伝わってくる。
懐いたら距離0とか小動物か。誰に対してもこうだったとしたら恐ろしすぎる。
「ほらほらほら! 訂正してください謝ってくださいぶん殴りますよ!?」
何より顔を真っ赤にしてプルプル震えているところが、いかにも図星って感じで若干可哀想になってきた。
背中越しにカナさんも俺を見ている。きっと謝ってあげた方がと言いたいのだろう。
……くっ、エア友達愛好家として非常に遺憾だが、大人の男として俺が折れてやろう。涙目だし。
「悪カッタ。エレミアサン友ダチイッパイ、オレワカル」
「うがああああああああああっ!!!」
エレミアが咆哮と共に杖を高々と上げ、全身をブーストのオーラで包み込む。
おかしい。謝ったはずなのに何故か事態が悪い方向へと傾いている。
「今までの所業は大人のレディーとして流してきてあげましたが、今回ばかりは許すわけにはいきません……。地獄のその先へと落としてあげます」
「待て地獄の先ってどこだよ。もしかして一周回って天国とか」
「一周回って輪廻転生からも除外してくれるううううううううう!!!」
「うお!? 光ってる! 光ってるよエレミアさん! 今までにないぐらいに輝いてますよ!!?」
状況は最悪、助けを求めるが昼間っからアルコールを摂取しているダメ人間どもはケラケラと笑っている。
今まさに人の命が消え去ろうとしている瞬間だというのに人間性を疑う。
どうする!? どうするどうするどうする!!?
命の危機に瀕した時、人はものすごい力を発揮すると言う。
この時、俺の脳は人生で一番回っていた。生き残るために、まだ見ぬお嫁さんと出会うために。
「エレミア!」
「聞く耳もちません!」
律儀に返答してくれるエレミアに俺は真剣な面持ちで、真剣なトーンで、眼を見つめながら告げる。
「愛している」
「うえええええええええええ」
吐しゃ物が視界を覆った。
エレミアが朝食べていたスープの匂いがした。
何が起きたのか理解したころにはエレミアの姿はなく、野次馬もいなくなっていた。
残っているのは俺とカナさんだけである。
「カナさん……」
俺からの愛の告白により、悪魔(エレミア)は本当の想いに気づいて蛮行をやめるとの筋書きだったのだが、どうしてこうなった。
もしかして吐くほど気持ち悪かったとでも言うのだろうか。
縋る想いでカナさんの名を呼ぶが。
「くしゃい……」
鼻をつまんだカナさんはゴミを見る眼を向けた後、脱兎のごとく去っていった。
残されたのは俺だけだった。
魔王退治と書いて嫁探しと読む @kabakaba
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