第8話

 どうも、世界を救うための旅をしている(仮)勇者ウォル・アクランドです。


「ほへぇ、カナちゃんは東の国の人なんですね。私、東の国の人と会うの初めてです」

「うん。一年前に、修……冒険者になって世界中を旅することになって」

「女の子一人で旅にですか? カナちゃんみたいな可愛い子だと危ないですよ」

「か、可愛いだなんて。エレミアちゃんの方がお姫様みたいで可愛いよ」

「ふふふ、お姫様みたいだなんて照れます。自分で言うのもなんですが結構自信ありますけど! 自称勇者さんは子供扱いばかりしてきますけど」

「あ、あはは」


 どうも、自称勇者のウォル・アクランドです。現在、テーブル席に座り、ジュースを飲んでいます。一人でです。


「エレミアちゃんはいつから冒険者をしてるの?」

「そうですねぇ。一か月前ぐらいですかね」

「あ、じゃあ、まだまだ始めたばかりなんだね。ウォル君とパーティーを組んでるんだよね」

「一応、パーティーと組んでいます。最近、生意気なので解消してやろうかと思うこともあるのですが、ウォルは弱っちいので私が抜けると簡単にくたばっちゃいそうなんですよね。だから、子供の面倒を見る気分で組んであげてます」、

「そ、そうなんだ」


 どうも、生意気で弱っちい子供のウォル君です。隣のテーブルで女の子二人が盛り上がっています。俺だけ仲間外れです。


「あ、カナさん、ウォルのことは気にしないでください。男の前だと緊張してしまうのですから、これは仕方がないことなのです。特にウォルみたいな人の前だと余計緊張するでしょうし」

「え、あ、で、でも、ウォル君が可哀想で、それに申し訳なくて」

「まあまあまあ、東の国は年功序列が厳しいと聞きます。ならば、年上であるカナさんは堂々としていれば良いのです」

「そこまで厳しくは……あるかもしれないけど、私はそういうの苦手で。それに年上って言っても一つしか違わないし」

「カナさんは優しいですね」


 どうも、カナさんの一つした16歳のウォル・アクランドです。ちなみにエレミアが15歳で最年少です。念のために。


「それより、そろそろ本題に入りましょうか。カナさん、ウォルに用事があるんですよね」

「う、うん。この間、街中で見かけた時に、ね。そ、その」


 顔を真っ赤にして、今にも消え入りそうな声で続ける。


「え、えっとえっと、その」

「ま、まさか」


 エレミアがわなわなと震えながら、ロボットの様にぎこちなく俺へと視線を向けてくる。

 ふっふっふ、ほら見ろ。俺の言った通りではないか。

 あれは完全に好意を持っている。しかも、中々の好感度。もしや、伝説の一目ぼれではないだろうか。


「カナさん、良いですか。一つだけお耳に入れておきたいことが」

「ど、どうしたの」

「あそこにいる勇者ですが、あろうことかパーティーメンバーは俺のハーレムだとのたまう最低の男です。とりあえず、知っておいてください」


 おい、こらあああああああ! あのお子様体形は何を余計なことを! 思いっきり好感度下げにかかってるじゃねぇか!

 せめて、嫉妬にかられてとかなら可愛げがあるものの、どう見ても本気でカナを心配しているじゃないか。むしろ、良くパーティーを組んでるな、俺たち。


「そ、そうなの?」

「そうです。初めはもうちょっとまともな人間かと思っていたのですが、猫をかぶっていたようで。慣れてきたら欲望が口から垂れ流されて流されて、いつか溺れるんじゃないかと思っています。と言うか、欲望を抱いて溺死しろ、です」


 毒舌撲殺天使が勝手なことをぬかす。

 そりゃ、誰だって慣れるまでは気を遣うでしょ。お前だって猫かぶっていたじゃねぇか。……あれ?

 出会ってからの一か月を振り返る。最初から結構あけすけだった様な。


「……あれ?」


 前乗りになっていたエレミアが間抜けな声をあげる。どうやら、俺と同じ結論に至ったようだ。


「どうしたの?」

「あ、ううん、何でもないです。そうですね。ま、まあ、ウォルのダメ人間ぶりは一緒にいればすぐにわかるので今は置いておきましょう。それで、見かけて、どうしたのですか?」


 エレミアの凶暴性も一緒にいればすぐにわかるので置いておこう。

 言いやすいように聞いてないふりをしながら、しかして大事な言葉を逃さぬよう集中する。


「……あ、憧れて」

「憧れて!?」


 憧れて!?


「う、うん。一目みただけで、あ、この人だって何となく」

「この人!?」


 この人!?


「え、ほ、正気ですか!?」


 おいこら。流石に正気を疑うのは酷すぎだ。



「あ、あはは、正気のつもりだよ。私、見る眼には自信があるんだ」

「うっ」


 どこかで聞いた台詞である。

 自称見る眼に自信がある人は先ほど自分を疑っていたが。

 しかし、どうしたものか。嫁探しの旅に出て一か月、いきなり出会ってしまった。

 もちろん、俺の最終目標はお姫様であり、また漢の夢であるハーレムだ。だがしかし、一人を生涯愛すのもまた漢。

 思考の袋小路へと陥ってしまいそうだ。とりあえず、お付き合いをしてみて判断するべきか。いや、それは俺の美学に反する。付き合うからには本気だ。ハーレムを作るにしても一人一人に対して本気であろうと俺はあの夜誓ったのだ。そう、幼少期のころに星空の下、親父と交わした誓い。

 ……物心つくかつかないかの子供に教えることではないが。半ば洗脳だ。うん、俺の女好きは親父のせいってことにしておこう。母さんも父さんに似てってため息ついていたし。


「ウ、ウォル君!」

「お、おう!?」


 思考に耽ていたため、突然声をかけられ変な声が出てしまう。気づいたらカナさんが近くに来ていた。


「あ、あの、そ、そその、と、突然こんなことを言われても困っちゃうと思うけど」

「お、おう」


 エレミアがカナさんに見えないことを良いことに不審な眼で見てくるが構う余裕などない。

 何故なら、こんな状況に遭遇したことが、人生で一度もない……からだ。一瞬、幼馴染を思い出したが奴のことは頭から振り払う。

 と言うか、ギルドで告白されるのか? にやにやと見ている連中はともかく憎悪を向けてくる奴らがいて怖いんですけど。


「……わ、私を」


 わ、私を? 彼女? 婚約者? 奥さん? 俺はカナさんをどうしたらいいんですか!?


「弟子にしてください!」

「よろこんで! …………え?」


 で、し? デシ? 弟子? 彼女は何をイッテイルンダ?

 他のみんなも状況を掴めていないのか、ギルド内が未だかつてないほど静寂に包まれている。……いや、一人だけ肩を震わせ、笑いをこらえている脳筋ウィザードが。


「え? え? あれ? ど、どうしたんですか? 私、何か変なこと、言っちゃった?」

「ぷぷぷ、だ、大丈夫ですよ。ウォルも喜んでって言ったじゃないですか。弟子が出来て感動してるんじゃないですか。ねぇ、ウォル」


 腹は立つが、そのおかげで少し冷静になれた。

 弟子。どうやらカナさんは俺の弟子になりたいらしい。


 …………え、何で。


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