第7話
突然だが、勇者(狩人)とウィザード(撲殺天使)のパーティーがあったとしよう。
あくまで仮定だ。俺の友達の姉貴の同期の先生あたりがきっとそうなんだろう。
でだ、あったとして、バランスが悪いと思わないか。悪いな。悪いんだ。
そもそも、フォーマンセル、四人組が一般的とされている中で二人。二人だけだ。そら悪いよ。良いとか一人一人のスペックが高いんだろ。
まあまあ、この街は比較的穏やかな地域に属する。そのため、クエストの難易度も低いものが多いし、魔物だって弱い。
だがしかし、だがしかし、俺は勇者だ。勇者なのだ。目的の一つにお姫様との結婚があるため、魔王とまではいかなくともそれに近いクラスと戦うことになる。
そうなると、現有戦力だと足りない。撲殺天使の潜在能力は高そうだが、今の環境で伸びるとも思えない。
仲間が、仲間が足りない。もっと多種多様の美少女が足りないのだ。
「人、来ませんね」
見た目は良いのだが、残念なほど色気がない少女――エレミアがポツリと呟いた。
せめて歳相応の容姿をしていれば、二人だけのパーティーにも楽しさが出てくるのに。保護者の気分しか味わえない。
「そう簡単にはなあ」
「……条件変えません?」
もう一時間は待ってますよ、と冷たい目線を飛ばしてくる。
それほど難しい条件ではないはずなのだが。
「変えない。変えません。変えたくない」
「……ウォルは変なところで強情ですね」
「そもそも、今の条件だって妥協した上でのものだ。妥協を重ねる気はない」
「だって、容姿に自信があり、攻撃または回復魔法を使える15~25女性とか来るわけないじゃないですか。と言うか、何で15からなんですか! もしかして遠回しに私に抜けろって言ってますか!?」
「い、今更気づいたのかよ。別に抜けろってことじゃなくて、年下枠はエレミアで埋まってるからそれ以外をと思って」
正確に言えば妹枠もあるのだが、エレミアが微妙にカバーしてしまっているためやめておいた。
「……一応聞いておきますけど、年下枠って何なんですか?」
「何って、俺のハーレムパーティーのだけど」
「え、馬鹿なの? 死ぬの? そんなに望むなら引導渡してあげますけど、最後に言い残すことはありますか」
光をなくした眼がそこにはあった。映っているのは虚無。殺意すらそこにはなかった。
率直に申し上げると怖すぎます。流れる様に取り出した杖が血を求める様に光り輝く。
あ、光り輝いているのはブーストを発動しているからか。
「申し開きがあるなら、一応聞いてあげますよ。一応ですが。聞くだけ聞いて即ぶん殴です」
「いやそこは考え直す余地をもてよ! だ、だって、エレミアが俺のパーティーに入りたい入りたいって言ってきただろ?」
「それは、そうですが」
「だろ!? だから、ああ、なるほど、俺の事が好きになっちゃったかってなるじゃん?」
「何でそんな考えになるんですか!? 自分に自信ありすぎです! 単純そうだからって言ったじゃないですか!」
「それだけなわけあるか! 勇者はもてるんだぞ! なめんな!」
「勇者はもてると聞きますが、ウォルがそれに当てはまるとは……。まあ、それはいいです。他の理由ですか……。あるにはありますけど」
前半部分にツッコミを入れたいが、理由も聞きたいので静かに待つ。
「うーん、正直、自分でも疑い始めているんですよね」
「いや何をだよ」
「私、人を見る眼には自信があると言ってたじゃないですか」
「そういえば、そんなこと言ってたな」
エレミアが目を細め、観察するようにジロジロと見てくる。……踊ってやろうか。
「うーーーん」
先ほどよりも長いうなり声。
「そうですね。理由は」
「理由は?」
「――保留にしておきましょう」
「おい!?」
肩透かしをくらいガクッと体勢を崩す。
あまりにあまりな結果だ。
「もう少し様子を見させてください。確信を持てたら教えてあげますから」
「待て。上から目線だけど、俺はお前をパーティーから外しても良いんだぞ」
「まあまあ、良いじゃないですか。ウォルは可愛い女の子が好きなんでしょ。置いてて損はしませんって」
「さっきの言葉をそっくりそのまま返してやるよ。自分に自信ありすぎ。所詮、お前の可愛さは微笑ましい可愛さだ」
「微笑ましい可愛さ、良いじゃないですか」
「子供を見て、大人が感じる感情だよ。俺が求めているのは欲を駆り立てられる様な可愛さだ」
「子供言わないでください。温厚な私だって怒りますよ」
「温厚なイメージなんて、これっぽっちもなかったからびっくりだ」
「「…………」」
両者無言のまま立ち上がる。
身長差があるため、見下ろす形となっていたので、視線を合わせてやる。無論、見下した笑みを浮かべながらだ。
わかりやすくエレミアがイライラを募らせ、口元がひくひくと震える。
「気を使ってくださいまして、ありがとうございます。ですが、そこまでしていただくても大丈夫です」
「あ、そうですか。身長差があるので、エレミアさんの首が疲れないかと心配で」
「いえいえ、どこかの勇者もどきと違って柔な鍛え方していませんから」
「これでもそれなりに鍛えてはいるのですが、ブーストしか使えない撲殺ウィザードには及びませんよね」
「「…………」」
威嚇し合う俺たちを取り巻きの冒険者たちが面白そうに見物している。
昼間から酒を飲んでいるのか顔を赤くしている者もいる。
荒くれ者が少なくない冒険者同士で喧嘩は頻繁に起きるため、言い合い程度だとギルドの職員も止めに入らない。ため息はつかれたが。
「す、すみません」
膠着状態に陥るかと思われたその時、後ろから声をかけられた。
振り返ると黒髪のポニーテールの少女が緊張した面持ちで立っていた。
どこかで見た覚えが――
「えっと、どこかで会ったことあった、よね?」
「何ですか、その使い古されたナンパ文句は」
「ナンパじゃないから!」
「は、はい! 先週、街中で」
頬を赤く染め、もじもじと落ち着きなく視線が彷徨う。
可愛い、素直にそう感じる。
「ほら! ……えっと、君は」
下手な口笛で誤魔化そうとするエレミアは置いておいて、一歩彼女へと近づくと。
「ひゃ、ひゃい!」
甲高い声と共に近くにあった観葉植物の後ろに隠れてしまう。
隠れた、と言っていいのだろうか。背丈こそ高いが、横の幅がないためはっきりと見えている。
だが、その光景で彼女の事を思い出した。
「あ! あの時の俺の追っかけさん!」
「追っかけ? 追っかけってファンってことですか? ウォルの? 本当に?」
「は? 見てみろよ、あの姿。あんなに恥ずかしがっちゃって。前に会った時も俺のこと見てて、声をかけたら逃げ出しちゃってさ」
「不審者と思われてただけかもしれませんよ」
「その後もついてきてたんだよ! それに不審者と思っていたなら、何で声なんかかけてきたんだよ!」
「不審者と間違えてごめんなさい、とか。……あ、間違えてないから謝りに来ないと」
第三者が絡んできても攻撃の手を休める様子のないエレミア。本当にパーティー解消してやろうか。
「え、えええっと、そ、その」
「あ、ごめんね。このじゃじゃ馬娘がうるさいけど気にしないで」
「誰がじゃじゃ馬娘ですか!」
「はいはい、後で構ってあげるから今は静かにしててね」
子ども扱いしないでください、と尚もうるさいじゃじゃ馬娘は放っておく。
今の俺の関心は目の前の美少女だ。あの時ははっきりと確認できなかったが、やはり俺の眼に狂いはなかった。
ポニーテールに纏められた黒髪は光沢があり、風になびく。可愛らしい容姿も、エレミアのそれとは違い、大人への階段を昇り始めたものがあり、思春期男子の胸を高鳴らせる。実際に高鳴っている。
そして、体形! エレミアの子供体形とは違う。胸部の程よいふくらみは手にきっちりと収まりそうで嬉しい限り、腰の細さは男として折れないのをわかっていても優しく扱いたくなる。反面、お尻は少し大きめ、安産型と言うのかな。お尻から足に至る体の線が健康的なエロスを醸し出している。
……俺は初対面の女性に大して何を考えているのだろうか。心の声を聞こえる人がいたら、完全に軽蔑される自信がある。
色々と考えたが、総じて好みの女性だヤッホイで済む話だ。
ある意味、ここからが本番。彼女の目的はわからないが、話しかけてきたのだから可能性はある。だからこそ、下心を悟られないように、そして好感度を上げる様に一挙手一投足にまで気を遣え。
地元では口から生まれてきた勇者と呼ばれ、口が軽すぎて実の母親に半ば本気で口を縫われそうになった俺だが、ここで頑張らなければいつ頑張る! ウォル、お前はやればできる子なんだ!
「っ!?」
物凄く冷めた視線をどこからか感じ、慌てて辺りを見渡す。すると、見物している大柄な冒険者の隙間からこちらを見ている女性と眼があったような気がした。
気のせい、だよな。
「貴女のお名前はお伺いしてもよろしいですか」
「あ、すみません! 私、香奈と言います! よろしくお願いします!」
「私はエレミアと言います。こちらこそお願いします」
と、よそ見をしている隙にエレミアが話を進めていた。
先ほどの女性の事は頭の隅へと追いやり、俺も話に交じろうとする。
「俺はウォル・アクランドって言います! カナって名前珍しいですね。黒髪黒目ですし、東の方の出身ですか?」
「……は、はい」
俺が話しかけると伏し目がちにおどおどとしながらエレミアの背に隠れてしまった。
「ウォルはどうやら怖がられているようですね。追っかけ、ふふ、追っかけ。追っかけに怖がられるウォル。ふふふ、流石は勇者ですね」
「こ、この野郎……!」
だが、だが怒ってはいけない。そんなことをすれば、カナさんがますますおびえてしまう。
心底楽しそうににやつくエレミアは後で絶対泣かすと心に決め、安心させるように笑顔でカナさんに話しかける。
「カナさん、俺、そんなに怖い人じゃないんで。えっと、安心してください」
「あ、あああの、べ、別にウォルさんのことが怖いってわけではないんです! た、ただ男の人に慣れていないだけで! ご、ごめんなさい!」
慌てふためき、涙目になりながら謝るカナさんが凄く可愛い。
ちょっと、ドキドキする。ここで傷ついたとか呟きながら暗い顔をしたら、どんなリアクションをとってくれるんだろ。あ、完全にいじめっ子の発想だ。
いかんいかん。そんなこと……そんなこと…………してみたいけど、してはダメだ! くそ、相手がエレミアなら……まずこんなリアクションをしないか。
ふぅ、落ち着いた。ありがとうエレミア。血に染まる君の姿が脳裏に浮かんで助かったよ。
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