第4話 おでかけ

今日は吉本さんの行きたい場所に付き合う日。待ち合わせ場所に到着すると所在なさげにスマホをいじっている吉本さんがいた。髪を後ろに緩く結んで、白い服の上からベージュのニットのカーディガンを羽織、下は肌に密着したジーパン。その服装は吉本さんによく似合っていた。

早足で近づいて声をかける。


「吉本さん」


「あ、藤原さん。こんにちわ」


「こんにちわ。待たせてごめんね」


「待ってないので大丈夫ですよ」


薄く微笑む吉本さんにわたしも微笑み返す。少し話したあと目的地に歩き出した。どこに行くのか聞いてみると、二人じゃないと入店できない飲食店だと教えてくれた。二人じゃないと入店できない飲食店などあるのか疑問だったが、とりあえずついて行く。吉本さんの願いが私がいることで叶うなら恩返しとしては理にかなっているはずだ。


「あ、そうだ。この前もらった薬すごく効いたよ。二日酔いの痛みがすっとなくなった。ありがとね」


「いえいえ、役に立てたなら良かったです。余計なことをしたかなと思ってたので」


「え、なんで?」


「なんだか藤原さんが困ってるように見えたからです。飲んではいけない薬だったのかなって」


「あー…いや、そういうわけじゃないんだけど…」


少しの間思考を彷徨わせる。こんなこと別に言う必要はないと思うけれど、吉本さんに気を遣わせたままなのも忍びない。


「大学生の頃にさ、お酒に睡眠薬混ぜられたことあってね。お持ち帰りされそうになって、その時から人からもらった薬に少し抵抗を覚えるようになってて…」


「なんですかそれ。その人最低ですね」


底冷えした声に思わず目を丸くする。吉本さんの目には軽蔑と嫌悪の色が濃くうつっていた。


「ま、まあ、私も若かったから羽目を外しすぎたっていうのもあったしね。それにそいつ付き合ってた彼女にそのことがバレて修羅場って壮絶な別れ方したって噂で聞いてスカッとしたし。若気の至りってものだったんだよ」


「それはそうかもしれませんけど…藤原さんはお酒で羽目を外すことが多い人なんですね」


「……まぁ、お酒飲んじゃうとねぇ」


「羽目外しすぎた結果、道端で座り込んで凍えてるのは本当に笑えないので気をつけてくださいよ」


「……はい、気をつけます」


これに関してはぐぅの音もでない。

こんな風に話をしていたらあっという間に目的の場所に着いた。木造建築の小綺麗なお店といった感じだ。中に入ると年配の女の人が対応してくれた。

ゆったりとした静かな空間を好ましく思った。


「ここいいね。雰囲気好きかも」


「ふふ、そうでしょう」


「吉本さん来たことあるの?」


「はい、何度か。この場所を少しでも沢山の人に知って欲しいんですけど、今の雰囲気を崩すのは嫌なので私が認めた人だけと来るようにしてるんです」


「ていうことは私はお眼鏡にかなったてことかな」


「はい」


「因みにどういう所が?」


「言葉で表すのは難しいんですけど…強いて言うなら勘です」


楽しそうに話す吉本さんが微笑ましくて自然と口角が上がる。


「私への恩返しはこの場所を知ってもらうことってことで」


「本当にそんなことでいいの?」


「そんなことがいいんです」


いい子だけど、変わった子だ。

欲がないというか、なんというか。しかし、吉本さんがそれでいいなら、もう何も言うまい。奢ることは禁止されているから、また機会があったらこの場所を好きになりそうな子を誘って食べに来よう。沢山の人に知って欲しいと行っていたし、ささやかな恩返しだ。でも私に気軽に誘える友人というのは今の所いないのでだいぶ先の話になりそうではあるけど。


「そういえばなんで二人じゃないと入店できないの?」


「店長のこだわりみたいです。昔は一人でも大人数でも入店出来るようにしてたみたいなんですけど、大人数だと騒ぎすぎて他のお客さんに迷惑をかける人がいたらしくて。あと二という数字が好きだからだそうです」


「なにそれ」


「さあ、なんでしょうね。私にもわかりません。いい人なんですけど変わったところも多くて」


親しみを感じる言い方だった。

思い返してみれば最初に対応してくれた年配の女の店員さんは吉本さんに対する態度と私に対する態度とは少し違う、温かみが増した声で話しかけていたように思う。

吉本さんはここの常連なのかもしれない。


メニュー表にはお手頃とは言えない値段ではあるものの美味しそうな料理の写真とその料理名が記載されていた。どれも美味しそうで迷ってしまったから吉本さんからおすすめを聞いてそれを注文した。

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限界OLとお人好し女子大生 春内 @hanava098

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