10話 呉越同舟!
ミヤは
緑が溢れたエンプティ付近と比べると、彼女が歩を進める度に少しずつその数を減らしていっている。
彼女の口には、婦人から貰った飴らしきものが含まれているようだ。
彼女の目的地であるローグランドは渓谷にある街で、その道のりは険しく、正規の手段では辿り着くのも困難である。
だがそれ故、剣士達にとってローグランドへ赴くことは、その行為自体が剣の道の登竜門であるとされる。
当然ながら、彼女は未だその序の口にも立てていない。少なくとも、物理的な距離においては。
辺りはすっかり暗くなっており、空には雨雲がかかっていた。
だが地図が放つ光のおかげで、彼女は周囲の確認をしつつ前へ進むことができているようだ。
彼女は懐中電灯の類いは一切持ってきておらず、また外灯等が設置されている範囲からは既に遠く離れていた。
そのため、もし地図がなければ彼女は、まともに町の外を出歩くこともままならなかっただろう。
また彼女の靴はもうボロボロの状態で、禄に走ることもできない。
それに何より、彼女は完全な空腹状態だった。
「う、うぅ。もうこれ以上歩けない、なにか食べれそうなの……」
またもや生命の危機に陥っているミヤ。
彼女の口には既に糖分のもとは見受けられない。
彼女は紙袋から
「!!ぺっ、無理無理!ぜっったい無理!やっぱ食べられないってこれ!渋いどころじゃないでしょ!」
余計に体力を消耗してしまったミヤだったが、ものに悪態をつけるだけの気力はあるらしい。
しかしながら、彼女が危機的状況に追い込まれていることに変わりはなかった。
今にも雨が降り出しそうな空模様の中、彼女は遂に尻餅をついた。
それまで眺めていた地図を地面に放棄し、彼女は目を閉じる。
「もうダメ……寝よ。起きたらきっと、何もかも解決してるんだ……」
ミヤは力尽きた。
近くに木々や草花もない地べたの中、ここまで無様な姿を晒していては、流石の彼女の両親も、それを知れば涙を流すことだろう。
彼女の旅路は、これにて終焉を迎えたのだ。
そう思われた、その時だった。
「……う~ん。あれ?夢?あたし、生きてる?というか、なんの音?」
夜空の中、ミヤは傍で鳴っている妙な音により目覚めたようだ。
どうやらそれは、咀嚼音らしい。
何と、あの時の青年が彼女の紙袋から
「え~っと、状況が飲み込めないんだけど。お前、何してんの?」
「あっ!ゴメン、起こす気はなかったんだけど、つい……」
青年が何を言っているのか全く理解できないミヤだったが、今この状況が、異常事態であるとは認識していた。
何故、何時間も前に別れた人間が、倒れた自分の目の前にいるのか。
彼女は刹那の間に、一つの答えに辿り着いた。
「この変態!痴漢!ストーカーヤロー!!あたしに変なことしやがって!あたしに親切にしてたのも、このためか!絶対ゆるさん!!」
ミヤも年頃の女の子だ。今まで異性にそういった目を向けられていなかった分、彼女はそれに余計に敏感になっているらしい。
だが青年は、呆けた面構えで激怒する彼女を見つめていた。
「変なことというか……それより、体調は大丈夫かい?少しは楽になるように、お呪いを掛けたつもりなんだけど」
「なんじゃそりゃ。……でも寝る前よりは、なんか元気になったっていうか」
ミヤの空腹感は幾分か収まっていた。それが青年のおかげかどうかははっきりしないが、彼女は警戒心を少し解いたようだ。
そして彼女にとって、一番の疑問を彼にぶつける。
「ところで、なんでそれ食べてんだ?なんか、色々と信じられないんだけど」
ミヤは青年に対し冷たい視線を送っている。
だが彼は、それを特に気にせずに言葉を返す。
「これ、美味しいよ。凄く」
「えぇ!?」
ミヤは、まるであり得ない存在を見るかのような面差しをしている。
彼女は一呼吸置き、そして深い溜め息をついてから、青年に語り掛けた。
「……分かった。お前、魔法使いだろ」
ミヤの言葉に、青年は動揺を隠せない様子だ。
彼はゆっくりと、彼女に対し口を開く。
「……どうして、分かったんだい?」
「それを平気で食べれるなんて、そうに決まってる。何でも美味しく食べれる魔法があるんだろ?認めたくないけど、魔法使いって本当にいたんだな」
思いも掛けなかったのか、ミヤの返答に青年は体勢を崩している。
「……ミヤはこれを食べても、何も感じなかったかい?」
「え?いやあ、すんごい渋いなあって」
青年は何か腑に落ちない様子だ。
考え込みながら唸っている彼に、ミヤは別の疑問をぶつける。
「そういや、なんでここにいるんだ?門のところからここまで、かなり距離あるのに」
「えっ、いや
誰の目にも明らかに狼狽えながら話す青年に、ミヤは疑いの眼差しを向けている。
だが彼女はそのままふいと彼から目を背け、まるで子分に呼び掛けるように言葉を発した。
「まあ、いいか。それよりこの地図、やっぱり読み方が分からないとこがあるから、一緒に付いてきてくれない?途中まででいいからさ」
「まさか僕に道案内をしろってこと?でも僕だって、ローグランドは話くらいでしか知らないのに。それに、その地図があれば子供だって迷いはしないはずだよ」
青年は再度地図の使い方を教えようとしているが、ミヤは覚えるのが嫌なのかそれを拒み、何やら不敵な笑みを浮かべながら彼に物申す。
「あたしの
「いやでも、それは君が倒れてるのを助けるために魔力を消費したからであって、そもそも僕は……」
青年は納得がいかないのかミヤに言い返している。
しかし彼女は、話の途中に彼の右腕を思い切り掴み、大声で言い放つ。
「つべこべ言わずに、さっさと来る!!」
ミヤは青年の右腕を強引に引っ張りながら、未知へと続く夜道を突き進むのであった。
ミヤとアルベリッヒの廻廊 爆裂五郎 @bi-rd
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