第三十一頁【逆柱】
【
「日本の原風景に宿泊しよう」という企画の家族旅行で、僕が小学五年生の頃に体験したお話です。
その日、僕ら家族が宿泊する事になったのは、昔話に出て来る様な
一階の広い吹き抜け部分には囲炉裏があって、火を起こすと大きな家の中全体が暖かくなりました。
家の中心には黒黒とした大黒柱が立っていて、二階の梁を支えています。
僕ら家族は囲炉裏でお鍋を食べてから、夜になったら囲炉裏を挟む様な形で、せんべい布団を敷いて眠りました。
パキリ、という家鳴りの音を耳に覚えて微かに目を覚ますと、今度はトイレに行きたくなって僕は起き上がりました。
囲炉裏の炭火が仄かに光る位で、周囲は真っ暗闇になっていました。
トイレの場所は覚えていましたが、勝手を知る普段の家とは違い、電気を点けるスイッチの場所もわからないので、暗闇の中を手探りするかの様にして、前方に腕を突き出しながら探り探りと歩いていました。
その日は月の出ていない、暗い夜で、中々視界が闇に慣れず、側で眠っている両親を起こそうかと思った位でしたが――ひたっ、とその時僕の手のひらが何かに触れました。
――柔らかい、微かに熱のこもった感触。
闇の中でこの手の先に触れたものは、完全に人肌のものでした。
両親はまだそこで寝息を立てて眠っています。
驚きながら手を引っ込めると、僕の手首を誰かが掴みました。
声も出せずに震えながら、その手を振り払おうともがきましたが、ものすごい力で振り解けません。
そしてそのまま――ぐん、と僕が体ごと引き寄せられたその時、スマートフォンの画面が放つボンヤリとしたブルーライトが僕を照らし出しました。
「どうした◯◯、トイレか?」
側で寝ていた父が目を覚まし、枕元に置いていたスマートフォンの明かりを灯したのです。
僕は愕然としたまま、父親の手元より放たれるブルーライトの僅かな光源を頼りに、自らの手の先にあるものを見ました。
それは昼間見た、ただの大黒柱で、突き出したままのその手のひらで触れてみると、ひんやりとした木の感触があるだけでした。
では闇の中、僕の触れた人肌は、僕の手を引いた者の正体は何だったのでしょう?
震えている僕にも気付かずに、父は眠そうにしながら、
「昼間聞いたんだけど、その大黒柱は逆柱になっているんだって。なんだも魔除けの意味があるそうだよ」と言った。
――――――
『
逆さになった柱より、下向きになった白い正体不明の怪異が飛び出している姿で描かれている。
木造建築における俗信に、木を本来生えていた方向とは逆にして柱とすると、家鳴りや火災、災いを引き起こすというものがある。
「家は完成した瞬間より崩壊を始める」という古くからの言われから、わざと家を未完成の状態にしておく魔除け的な意味で柱を逆柱にする事もあるという。しかしこれは妖怪の『逆柱』とは異なる物である。
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