第11話
「ふぅ…ふっ」
体調が悪そうに、出灰ハクアは顔を蒼褪めている。
両手でナイフを持った状態で、出灰ハクアは行方樟葉に切っ先を向けていた。
「このッ…ふーッ…あぁ落ち着け…このバカが刺せる筈がねぇ…ふーッ、ふーッ…」
怒りを鎮める行方樟葉は、出灰ハクアが自分を刺す様な真似はしないと思っている。
それは、彼女と組んでいた頃に理解している事であり、彼女は仕事に出た時に、必ず、自分から攻撃する事など無かったし、彼女自体に戦闘能力は無い。
だから、ナイフ如きでどうにか出来る筈が無いと高を括っていた。
「ハクアが…ハクアが、貴方を裏切ったのは…」
「誰かに唆されたわけじゃありません…ハクアは」
「分相応を知らない、貴方の馬鹿さ加減に…愛想を尽かせた、だけですッ」
声を震わせながら出灰ハクアは告げる。
彼女の表情と身体の動きからして、出灰ハクアの強がりである事は分かる。
だが、その言葉には少なからず、彼女なりの怒りと言うものが含まれていた。
自分が馬鹿にされる事ならば良い、だが、出灰ハクアが恩義を感じる相手だけには、バカにする事は許さない。
「…昔は」
「昔は首を締めながらヤッたよなァ?」
「そうしないと、緩いからなぁ、お前」
「…今度はよォ」
「首を絞めて殺してやるよ」
ズボンのベルトに巻き付けた鎖を取り出す。
それは行方樟葉の掌に絡まり、指を搦めて手から垂れ出す。
鎖の先端には鏃が備わっており、行方樟葉は鎖を回す。
硬質な音と共に鎖が回転し出して、出灰ハクアの元へ投げ出す。
出灰ハクアは、臆しながらに飛び出した。
鏃が出灰ハクアの脇腹を突くと、そのまま鎖が出灰ハクアの体に巻き付いていき、横腹から胸を縛り、首を通ると、そのままナイフを持つ手まで鎖が絡まる。
鎖が蛇の様に出灰ハクアを締め付けると、苦しそうに出灰ハクアが呻くと、ナイフを手から離して倒れる。
「お前の体質は理解してるぜ?」
「希少なモンだ、唯一無二に等しい」
「だからよォ…体質は遺伝するもんだからよォ」
「ガキを作ったら、そのガキもお前と同じ体質の可能性があるんだよなぁ?」
舌なめずりをする、出灰ハクアへと近付くと、行方樟葉は自分の足を上げて、靴底で出灰ハクアを踏み締める。
「このまま首を絞めて死ぬか」
「これからマワし続けてガキを孕まされるか」
「選べよ、全身で媚びながらなァ」
ぐりぐりと、足で頭を踏み潰される出灰ハクア。
行方樟葉のもう片方の足は、丁度、出灰ハクアの自由になった手に届く距離だ。
「く、ッあっ!」
出灰ハクアは、ナイフを逆の手に持ち替える為に手を離し、そして、自由になった片方の手でナイフを掴んでいた。
そのナイフを大きく振り被り、行方樟葉の足の甲に向けてナイフを突き刺す。
意趣返しをする様に、思い切り振り翳して突き刺した為に足は靴を貫通し地面にまで届いた。
「ぎ、ぎゃァ!!」
情けない声を発しながら、尻持ちを突く行方樟葉。
それと同時に立ち上がる出灰ハクア。
既に、彼女の脚部に付けられた傷は癒えていた。
彼女を捕らえた奴らは誤算をしていた。
一つは、出灰ハクアが部屋の中で転がる女性たちと同じ存在であると認識してしまった事。
もう一つは、行方樟葉は、霊武難刀の小隊を務めて置きながら、多くの勧誘を行い、その結果として禍遺物の認知が浅い兵隊を動かしていた事。
これによって、出灰ハクアが禍遺物を所持していたのに、無視される事態と陥った。
「はっ…ッ」
出灰ハクアは部屋から飛び出した。
手には、血に濡れたナイフを握り締めており、出灰ハクアは逃げ惑う様に走り出す。
「(今の、ハクアじゃ…行方さんは、倒せない…ッ)」
出灰ハクアは、太腿に残る痛みを感じながら逃げ続ける。
唯一、この状況を打破する事が出来るとすれば、それは狗神仁郎の存在。
だが、狗神仁郎が建物の内部に居るとは考えられない。
加えて、出灰ハクアはあの部屋で確かに依頼人が探していた行方不明者…万千世を見た。
彼女は弱い、だが、非生として活動する以上、仕事に対する情熱はある。
「(ハクアが、やらないと、っ)」
その硬い意思と共に、出灰ハクアは走りながら、自らの手首にナイフの刃を押し当てた。
身が穢れた薄幸系ヒロインが主人公と出会い幸せになるまでの話、現代、ヤンデレ、バトル、ダンジョン、ダークファンタジー 三流木青二斎無一門 @itisyou
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