第10話
最初、出灰ハクアは行方樟葉である事を認識出来なかった。
それもその筈だ、行方樟葉の肉体は、最後に見た時よりも変貌している。
スカジャンを着込んでいるが、右半分は痩せ細っていて、重たそうに腕を動かしている。
片足が上手く動かせないのか引き摺っていて、中でも一番変わっていたのが、その頭部だ。
金髪に染めていた髪は、ストレスによるものなのだろう、白髪に染まっていて、顔面の半分が骸骨の仮面を装着されていた。
彼が歪んだ笑みを浮かべると共に、骸骨の仮面も口が開き風に晒されるが如く笑う。
「どうだ?見間違えたか?」
「俺も自分自身で見違えたと思うぜ…」
「いや、間違えた結果がこれか」
自分の行動を鑑みる様に考える。
脚を引き摺りながら、手に付着した血を舐めると、スカジャンの懐に手を伸ばす。
そして、…取り出したのは、何の変哲も無い、ただのナイフだ。
禍遺物固有の禍々しい空気が感じられないから、禍遺物のナイフじゃないのだろう。
その様に認識する出灰ハクアに、目と鼻の先に行方樟葉が迫った。
そして、出灰ハクアに微笑みながら、自らの顔半分を…骸骨の仮面を撫ぜる。
「回顧屋の、あの火女が俺の顔面を焼きやがったんだ」
「まあ、半分は無事だから、良かったけどよ、ひははッ」
笑い出す行方樟葉。
自分の顔面を焼かれた事に対して何がそんなに可笑しいのだろうか。
出灰ハクアはそう思っていたが、直後に、出灰ハクアの太腿に向けてナイフを振り下ろした。
「あーーーッ!笑えねぇだろうがよォ!!俺の顔面を焼きやがってェ!!」
出灰ハクアの太腿を、ナイフが突き破ると、ぐりぐりと傷口を抉る様に掻き回す。
血が噴き出て、暖かな体液が足を濡らす。
「~~~ッ」
出灰ハクアは下唇を噛み締めた。
神経がズタズタに引き裂かれる様な激痛が全身に走り出す。
「クソがッ、あのチャイナババアは俺の体を内側から破壊しようとしやがったッ」
「カマ野郎は羽で俺を刺し殺そうとしやがったんだぞッ!」
「クソがッ、クソがァ!!何よりも、気に食わねぇのは」
「おいィィ…ハクアァぁ…テメェが俺を裏切った事だァあ!!」
出灰ハクアの真っ白な髪を掴んで強く引っ張る。
そして、髑髏の仮面を出灰ハクアに近付ける。
髑髏の眼球部分から行方樟葉の眼球が見えた。
火傷によって瞼が張り付いて、眼球が剥き出しになっている。
瞬きする事が出来ないので渇いていて、充血、と言うよりかは血走っている。
「そもそも、テメェが…俺との契りを切らなきゃよぉ…」
「俺は…あんなクソ共に負ける筈がねぇんだ…」
「俺の力が十全に発揮出来てりゃァよぉ…」
「それもこれも、お前がッ」
「俺の言う事を効かねぇからこういう事になったんだぞ?」
「何処のバカに唆されたかは知らねぇけどなァ…」
「テメェは、俺の言う事だけ聞いてりゃ良いんだよ…」
「おおっと…眼が痛ェな、目薬目薬…」
ナイフから手を離して、行方樟葉はポケットから目薬を取り出すと、髑髏の仮面側の眼球に向けて目薬を点す。
重苦しい声が、次第に軟化していく。
「っと…、そうだ、俺はもう変わったんだ」
「ほら、激昂してもすぐに冷静になっただろ?以前の俺とは違うってワケだ」
「俺も色々と考えたんだよ…」
「このすぐにカッとなっちまう性格が災いを齎したってなぁ?」
「ほら、俺は変わったぜぇ?だから今度はお前が変わるべきだろ?」
「なあ…おい、おいおい…なんで、ナイフを構えてんだよ?」
出灰ハクアは涙目だった。
行方樟葉が太腿に刺しっ放しのまま手を離した為に、出灰ハクアは自分でナイフを引き抜いて、足の枷と手の枷を切った。
幸いにも、布で縛られただけだった為に、簡単に切る事が出来た。
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