第91話 降参です。ばんざーい!
「まずい。一等まずいぞ、これは」
「お手上げだねえ」
「
まるで他人事のように降参のポーズを取る
上院本校舎に設けられた会議室。
中央にある円卓テーブルには、三人の女教師の姿がある。
「
ピンクのリボンを頭に二つ付け、若干ぶりっこの入った女性は、上院・光魔術担当の
「
くりっとした目のショートボブ。
「ふんっ。頭がお花畑なだけだろう」
「ひどいです、ひどいです!
ぷくーっと
「落ち着きたまえよ。
「心外です、心外です!
「この非常事態に、浮ついた空気を出しているからだろうが!」
溜息をついて
「おい待て。どこへ行くつもりだ」
「真面目にやらないのなら私は失礼させてもらうよ。こう見えて忙しい身なのでね」
「あー、
「貴様も同罪だろうがっ!」
そして形ばかりの謝罪を二人から受け、
「で、だ。どこまで話したんだったかな」
「一大派閥ができてお手上げだってところまでだ」
「そう。
「
「大ありだ、馬鹿者! あのような一大派閥が出来上がってしまったら、もう誰もあの男に手を出そうとは思わんだろうが」
ゴリラのような雄叫びに
円卓テーブルに両肘をついて、
「別にいいじゃないですかー。そんなに目くじら立てなくても」
「いいわけあるか! 学園長直々のご
「まさにそこなんだよねえ。あの
大きな溜息をつく教師二名。しかし一人、
「外交戦略上、もう何をしたって上院の生徒は動かないってことですよねー。つまり、わたしたちにはもう
「だからまずいと言ってるんだろうが!!!」
「いいや
「そうです、そうです! 諦めましょうよー!」
「まだ三年首席の
「
「なんだと! 貴様の方こそ一面がピンクの花畑だろうが!」
「やめないか、二人とも」
「
「そうです、そうです! 百歩譲って、
「
諦めの悪い同僚に、
「だいたい
「ぐっ……それは」
言い
「
「私も
「だが、いいのか? もしこれで
痛いところを突かれたのか、
「
「
「ふんっ、そんなの決まっている。適性属性なしの半龍人だからだろう」
「
「なんだと貴様!」
「あー、もういいから! 君たちは私に何か恨みでもあるのかね」
下院と上院の教師は
「とにかく、我々はこの件から手を引くべきだと思うよ」
◇◇◇◇◇
上院の敷地には小さな森がある。
歩道の脇を小川が流れ、水のせせらぎが小鳥の
冬に咲く青い花が岩場に
「うー、
寒さで歯をカチカチ鳴らしながら、
前を見ても後ろを見ても、遊歩道に他の生徒の姿はない。
人気のない寂れた森だ。
上院にはこの他に、日の当たる見通しの良い庭園や、温室ガーデンなどもある。自然を
おそらく、夏場は
ふと空を見上げると、お腹のでっぷり太った鳥が、バタバタと一生懸命飛んでいるのが見えた。お
視線を足元へ落とす。遊歩道の木目へ意識がいった瞬間、頭上でメキメキメキッ! と枝がへし折れる嫌な音がした。
「なん、だ――」
「きゃああああああああ!」
頭上を見上げるのと、それが
頭にゴチンと何か硬いものが当たり、次いで体にかかる重力が一気に増した。
気が付けば、
「痛ててて、一体なにが起こった?」
素早く身を起こそうとしたところで、腹部に重みを感じて
「痛いです、痛いです! 失敗しましたー」
お腹の上できゅ~と倒れていたのは、
「おや、おや? もしかして君は、噂の転入生くんではありませんかー?」
体を起こした女性は、
見た目は二十歳前後。龍人の年齢で言えば百歳ぐらいにあたるだろうか。髪の毛の短さが少しだけ桜華を
「あんっ」
強引な
「転入生くんは大胆ですねー。これは対面座位と呼ばれる大人の――」
「いいから早くどいて下さい!」
なんとも
「いいですね、いいですね!
耳元に顔を近づけて
「むー、今晩のおかずはぷくぷく鳥が良かったんですけどねー」
などと不満を口にしている。
尻についた泥を払いのけながら
「学園の人ですか? どうにもそうは見えないんですけど……」
全身ピンクのエロい人。それが今現在の
疑わしげな
「元・魔法少女マジカル☆アヤナだよ! 今は上院の教師をやっているの」
その右手にはいつの間にか木の棒が握られていて、どや顔と共にビシッと枝先がこちらへ突き出されている。
「あ、これ絶対に関わっちゃいけないやつだ」
「ちょっと、ちょっと! 待ってくださいよー。無視はひどいです、無視は!」
まるで
「不幸な事故だった。ただそれだけだと思うんですけど。まだ俺に何か用ですか?」
「君にたいへん興味がありますー」
「俺は興味ないんで。すいませんけど、これで」
右へ行くと見せかけてからの左への切り替えし。そのフェイントに元・魔法少女(自称)は軽いフットワークでしっかり対応し、
「逃げるつもりなら捕まえちゃいますー」
えいやっ! と抱き着いてきた。
「わぁあああ! 女教師ともあろうものが何をしてるんですか!」
「この方法が一番確実にお話ができますー」
ドエロい女教師が
「いやいやいや! 龍人女子の名節どこいった!?」
「
「置いてこれるもんなのそれ!?」
強く押し返されながらも、強引に顔を近づけてこようとする
「わかりましたから! 逃げないから離してください!!」
その
「だいたい
「わたしは別に敵視していませんよー?」
「さて、どうだかな」
そんな残念教師・
「わたしたちの
龍衣に付いたピンクリボンと一緒に、全身を使って両手を何度も空へ持ち上げる。
そこに教師としての
「どことなく、
「はぁ? 今なんて言いましたかぁ? わたしがあの飲んだくれ幼女と同じぃ?」
とつぜん目の色が変わり、どす黒いオーラが
そういえば、上院と下院の教師は犬猿の仲だという話を思い出し、
ガミガミと説教が始まった。ガチの説教かと思えば、ほとんどは下院教師への
「――って、ちょっと、ちょっと! ちゃんと聞いてますか、転入生くん」
「はいはい。聞いてますよ。風曄先生は毎日牛乳を飲んで無駄な悪あが――じゃなかった、身長を伸ばす努力をしているんだから、あんまりチビチビ言わないであげてください」
一通り愚痴を吐き出しスッキリしたのか、
「とにかく、とにかく! 我々上院教師は、転入生くんと敵対することはもうないと思いますよー。
「あの
「そうです、そうです!
さらっと放たれた同僚教師への
とはいえ、女教師に認められたというのは朗報だった。
「そうですか。これで黒陽との結婚を
「――――それがそうもいかないのよね」
その言葉は、目の前でほわほわした空気を
そもそもこの森に呼び出したのは彼女であり、大遅刻したことに目をつぶるとすれば、この場に居合わせるのはむしろ必然な
そして
「まだお母様が認めていないのよ。少し面倒なことになりそうだわ」
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