第96話 水龍の舞い
脳天を一刀両断にする斬撃軌道。
瞬間、腕に掛かった負担は
「――ぐっ、これ程とは」
学生を相手に本気を出せとの命令に
重い。そしてぶつかり合った《剣気》が突風のように吹いた。
それはまさしく龍公クラスの《剣気》。油断をすれば確実に
ガキィンッ!
金属音とも少し違う《剣気》の衝撃音。
(なんだ……このプレッシャーは)
尋常ではない
この数十年。龍皇の剣となり
もはや死と隣り合わせが日常だった。
死を覚悟し、
――だが。
この震えは何なのか。
全身が総毛立つこの感覚は久しくすらある。
少年から受けるプレッシャーは、明らかに
恐怖は体を縮こまらせ、死を一歩早める。
五体に刻まれた経験則が、
《剣気》の出力を上げ、更に
が、そうまでしなければ押し返せないのだ。
相手の剣を
単調な攻撃ゆえに《剣気》の流れ自体は読みやすいが、受けるしかない
重たい
「うむ。凄まじい気迫と《剣気》。見事だ」
「そりゃどーも」
軽口を返してくる少年。だが、言葉とは裏腹にその表情に余裕はない。
全力で《剣気》を放出しながらの乱打だ。しかも
ガキィンッ!
高密度に圧縮された双方の《剣気》が火花を散らし、中空へ溶けるように消える。
今、無理に打ち返す必要はない、と。
時間が経てばおのずと彼の動きは鈍るだろう。反撃はその時でいい。
ステップを刻み、斬撃の軌道上から体を
大振りを外した少年は隙だらけに見える。だが、
(持ってあと三分といったところか)
勝利へのカウントダウンを頭の中で刻み、
◇◇◇◇◇
常人が《剣気》を見ることは叶わない。
が、
その激突は空間さえ歪めるほど。ゆえに大気に生じた歪みを察知することで、本来は見えぬはずの《剣気》が
「見えるわ……空間を揺らす
汗ばむ拳を握り締め、
「まるで
一学年次席の
「あれほどまでに凄まじい《剣気》だったのか……」
上院・下院合わせて九百名。観客席で湧き立つ生徒たちとは対照的に、
「そうだ。
「オレじゃ歯が立たなかったわけだ。あんなの少し
「それは私とて同じだ。成長期の龍人の力を
大気を介しての間接とは言え、一般人にまで可視できる程の超大な《剣気》だ。模擬刀から散ったわずかな《剣気》でさえ必殺の威力がある。
「ご主人様はすごいってことです?」
「そうだ。私たちの主人はものすごく凄いんだ」
わぁと
「いつの間にかヒロインが一人増えてるんですけどー。翔くんも
むーと
「それで
「うーん、そうですねぇ。少しばかりマズイような気もぉ」
祈るように両手を合わせるアリスは不安げだ。一方、席上で膝立ちになった
その幼女の隣。下院の女教師たちが並んでいる。
「
「禁軍統領は龍公を
三角眼鏡の
この発言を受けて、
「
「うるさい! 黙ってろ。気が散る」
強烈なパッションピンク。上院教師の
「
「
マイペースな
腕まくりしたゴリラの太い二の腕を凝視した
闘技場の高台。
特別観覧席から決闘の行方を見守るのは
「この勝負。どう思う、
「そうですね。禁軍統領は、お父様の右腕です。実力的には
「ただ、なんだい? 遠慮することはない。言ってごらん」
「妹が惚れた男の底力に興味があります」
次の瞬間、勝負が大きく動き、闘技場全体が歓声に
◇◇◇◇◇
異変を感じたのは、戦闘開始から五分を過ぎた頃だった。
一向に止むことの無い豪雨のような
そろそろスタミナが切れても良いころだという
――否。
それどころではない。
次第に打ち込まれる斬撃の重さが増していっている。
一太刀ごとに加速するように。一撃を
「まさかここに来て《剣気》の出力が上がっているというのか」
その上昇は
まさに嵐。
それはハンマーでぶん殴られたような――という
鉱石ごとの
反撃どころではない。一撃を打ち込まれるたびに体は大きく
今までは、いくら強力な《剣気》と言えど、ある程度《
そんな中、今までで最大規模の暴風が
この攻撃を受けにいけば、まず間違いなく受け損ねて命を落とすと。
この加速を少年がどうやって生み出したのかは、わからない。
だが、こうなる前に倒しておくべきだった――と今更ながらに思う。
斬撃が
確実な死を前に、
――
少年の一撃は確実に
死角から放たれる
手加減の効かぬ本気の一撃が、少年の体を水平方向へ大きく吹き飛ばす。
そのまま数十メートルを
いかなる攻撃もその不規則な動きの前では無力。その実体を捉えることは
これこそが、現役の龍公を
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