第95話 開戦
雲の合間から差し込む太陽光に目を細める。
五メートル、いや六メートル以上はあるか。円形舞台に立つ者を逃すまいと、ぐるりと円周状に高い壁がそそり立っている。
高台に
「
観客席の最前列から、女子生徒たちの熱狂的な
「注目を集めるのは慣れないな」
声援を送ってくれているのは、同じ派閥の女子生徒たちである。上院の半数以上が同じ派閥に属しているので、その声援も力強い。
逆に、ブーイングを送ってくる者もいる。それは主に下院の男子生徒たちだ。
「
当の
「ま、いいさ。どこかで見てくれてるだろ」
闘技場の床は一面のタイル張り。
びっしり敷き詰められた白タイルの先には、黒い
どことなく公主様に似た、
長髪を
審判はいない。この場に立っているのは二人だけだ。
なるほど、と
まだ構えただけだというのに、男から受ける威圧感で手が汗ばむ。
震えだしそうになる腕を、
ふー、と息を吐き、
「これはどのタイミングで始めりゃいいんですかね?」
「いつでも良い。先手ぐらいはくれてやろう」
対する
ただがむしゃらに剣を振るうには、この構えの方が都合が良い。
学園へ入学してから今日まで、圧倒的な《剣気》でごり押し、勝利を掴んできた。しかし今回ばかりは同じ手は通用しないだろう。だが、そうだとわかってはいても、
迷えば剣は
「そんじゃあ、行かせてもらいますかね」
正眼に構えた剣身から
この三ヵ月間、
◇◇◇◇◇
「――痛っ!?」
背中から
「ふむ。どうやら貴様に複雑な《剣気》の操作は、まだまだ望めないようだな」
吹き飛ばされた模擬刀を拾い上げ、フラフラと立ち上がった
「《剣気》の操作っつっても、そんな簡単にポンポンと切り替えられませんよ」
「無論、簡単にはいかないだろう。だが、《剣気》をがむしゃらに振るうだけでは、この先、勝てない相手が現れるかもしれない。貴様はそれでもいいのか」
「……わかってますよ。でも、どうしてもコツが掴めないんです」
「もう一度、おさらいしよう。《剣気》には三つの
「《
「そうだ」
模擬刀の切っ先で、発、誘、引、と三つの文字が床面に彫られる。
「では各形態の
「《
その回答に、
「いいだろう。では《
「《
「正解だ。では、実際に使ってみろ」
距離を取り、
《剣気》を宿した模擬刀の切っ先が、
空振り。
それは
「よし、合格だ。《剣気》で劣る私が、貴様のデタラメな《剣気》を
公主様でも
「では《
「《
「正解だ。では、私の《
今度は
これに対し、
直後、刃が激突し、
「うむ、この短期間でよくここまでできるようになったな。だが、一つだけ補足しておこう。《
要するに、
《
そしてこれらの剣気は、同時に複数起動することができる。
用途に応じて素早く《剣気》を切り替えて、相手の《剣気》に対抗することが
上記はあくまで一例に過ぎず、ここから更に後出しじゃんけんが続く。相手の手を見て、こちらの手を変える――
今までの
「この三形態をすべて完璧に習得すれば、もはや私では手も足も出なくなるだろう。だからこそ、死ぬ気で習得しろ。黒陽公主を娶りたいのならな」
「だけど先生。口で言うのは簡単ですが、実際には難しいんですって」
現実問題として、《剣気》のスイッチはとても難しい。
《
その泣き言に
「わかっている。普通は
と、そこで
「三つの作業を同時にやろうとするからおかしくなるのだろう。ならば、《
「うーん、確かに《
「そうだ。そしてこれは実戦でもそのまま使える。貴様の馬鹿みたいに巨大な《剣気》を活かして、相手の《
「要するに、いつものごり押し戦法が通用するわけですね」
「ああ。ただし、この戦法は相手の《剣気》を常に上回っている必要がある」
相手の《
「そしてもう一つ。相手の《
その日を境に、
一日十二時間。《
それを毎日休むことなく、
ちなみに座学の授業は全部(強制的に)キャンセルされて、必修科目以外は全部特訓漬けの日々だった。これとは別に、夜の《気》の修練も
◇◇◇◇◇
剣先を水平よりやや下げた構え。防御の姿勢で佇む黒衣の剣士――
小細工なしの真っ向勝負。
剣の
「しゃらああああああっ!!!」
大上段から斬撃を振り下ろした。
ここまでは予定通り。練習の甲斐もあって、
互いの模擬刀が十字にクロスする。
ビリビリと手に伝わる衝撃。
その手応えに
「――ぐっ、これ程とは」
ガキィンッ!
両者は大きく吹き飛ばされ、距離が空いた。
しかし、
先制攻撃の強打で、こちらのペースに引き込んだ感触がある。しかし、攻撃を少しでも
そう直感した
その一撃一撃は、
上段から斜めに斬り下ろした斬撃をバックステップで避けられれば、
脳内麻薬が大量に
踏み込みはより大きく、打ち込みはより大胆に加速していく。
対する黒衣の剣士は、
一進一退。
優勢――そう思っていた
禁軍統領・
何かを狙っているのか。そんな予感を抱きつつも、それでも
戦局は次の局面へ移ろうとしていた。
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