第89話 上院最大派閥の誕生
黒板にびっしり書き込まれた白チョークの文字。
目を
授業終了を告げる鐘はとっくに鳴っており、生徒で賑わっていた教室はがらんと静まり返っている。
真剣な眼差しで
勤勉な少女の頭を撫でてやりたくもなるが、流石に邪魔になるかと思い、
この二週間で上院には大きな変化があった。同盟を機に、上院最大派閥が誕生したのである。
元々貴族社会では、力ある龍人に対しては敬意を払い、友好的に立ち回るのが常道らしい。強者との対立は、利よりも害の方が大きくなるためだ。好戦的な性分を持つ龍人だが、貴族たちは己の闘争心を抑える術を知っている。
上院生が早い段階で
そして貴族の令息・令嬢が集まる上院においては、強者と友好関係を築き上げて派閥を作っていくのが習わしで、通常は各学年の首席を中心に人が集まり、大きな三つの派閥が出来上がる。しかし、
「当然さ。黒陽公主は上院の首席だったからね。
とは、最大派閥の誕生に気を良くした
「
上院での外交は、遊びではないのだと
「派閥内での親交は卒業後も続き、荒野でのライフラインとして機能する。派閥の規模がそのまま生存率に直結する関係上、それだけでも
派閥といっても誰がリーダーとは明確に定められていない。これは群れの独立性を担保するための
とはいえ、
奴隷への待遇改善を呼びかければ、
「力さえあれば、龍人社会はいかようにも変わりますわ」
これは数日で上院が様変わりした際に、
あるいはそれは、人間社会も同じなのかもしれない。が、龍人社会における戦争の引き金は、少し触れただけで引かれてしまうほどに軽い。
だからこそ同盟を結び、全方位を敵に回さないように努力するのだそうだ。
そして力のある龍人は、外交で常に有利に立ち回ることができる。学園での外交ごっこは、龍人社会の
「もうあんたを馬鹿にできる奴なんていないわ。この調子なら、卒業後も
これは
上院最大派閥の中心人物。
もはや、
半龍人だと蔑む者もいなければ、適性属性がないことを笑う者もいない。
下院では未だに
ふと、
チラリとノートを覗き見たところ、まだ全部は書き写せていないようだ。
息抜きも必要だろうと考え、
「下院の男子は馴れ合わないんだよ。上院はまさに別世界って感じだな」
「ご主人様。下院に外交はないです?」
「ああ、自分以外の男は全部敵って考え方が主流だ」
「それでは長生きできないです」
「教養の違いなのかもな。貴族たちは生まれてからずっと英才教育を受けてきた。だから龍人の本能が戦えと
人間社会でも教養の差は
それは読み書きであったり、豊富な知識であったり、立ち振る舞いであったりと内容は様々だが、生きて行く上で有利に働くのは間違いない。
「だが一方で、平民にはその教養がない。するとどうなるのかと言えば、龍人の本能のまま殺し合うわけだ。必然、生存率が低くなる。そう考えると
貴族社会のイロハを学び、自分を変えようとする前向きな発言である。
「いいえ、ご主人様。
ぐっと両手を握って、そう力説する
もう一度、
「そういや、黒陽も似たようなことを言ってたっけ」
同盟
独断で同盟締結を決めてしまったことに、
「あなたが正しいと思うことをすればいい。私はあなたがいかなる決断を下そうとも、全力で補佐していくつもりだ」
気が付けば、人前であることも忘れて、その細やかな
「人間社会で生まれ育ったあなたにしか、出来ない決断がある。
貴族の常識を学び、知識を増やすことで生存率は高くなる。
しかしそれは同時に、貴族社会のルールに染まるということを意味する。例えば、奴隷を当たり前の存在だと認識してしまえば、助けようという発想そのものが浮かんでこなくなる。長らく
そしてその
「黒陽様は、お優しい方でした」
「黒陽が受け入れてくれて良かったよ」
「はいです。共に我らが
興奮気味に話す彼女の目元には、大粒の涙が溜まっていた。
「だから
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