第88話 二学年首席・蒼月
室内は貴族の執務室といった
特に奥の壁に掛けられている
「おいおい、こんなの見たら
あわあわと
「俺らが溜まり場にしているボロ小屋なんかとは、えらい違いだな」
「上院の首席には豪華な私室が丸々一室与えられますのよ」
太々しい態度でぞんざいに室内を見回す
対して、
勧められるがままに
「
後ろを向いていた革張りの執務椅子が、くるりと回転する。
そこに座っていたのは長髪をオールバックにした男子生徒だった。切れ長の目に覗くのは弟と同じ
「ご苦労だったな。
「いいえ。お安い御用ですわ」
ギシリ、と革張りの椅子が
立ち上がった男子生徒はすらりとした長身だった。
柔らかな物腰で進み出る。その姿を一目見ただけで、他の上院生とは違うのだとわかった。絶対の自信。弟にはなかった強者のオーラを
――強い。直感的にそう感じた。
「君が
相手に合わせて
応接ソファーの上で、
「
そんな
「出来損ないの弟の件はどうでもいい。私が興味あるのは、君だよ
「へえ。俺への興味が
「まぁ掛けたまえよ」
「おいおい。公主様を顎で使うってどうなってんだよ……」
「
振り向きざまに
「
やはり姉妹だからだろうか。考え方がどことなく公主様と似ている。
しばらく会えずにいる最愛の人を懐かしく思い、けれど今はそれどころではないとかぶりを振って、
「で、用件はなんだ」
ずずっと音を立てて、
「愚かな弟は、
そして二人の関係を良く知る
「約束を
「勘違いしないで貰いたいのだがね。
「あんたの父親の奴隷であり、今は
「……理屈の上ではそうなるな。だが、私が父に
ギラリ、と
「
「ふむ。血気盛んなことだな」
「群れを守るのは龍人男子の務め。当然だろ」
徹底抗戦の構えを打ち出す
「二つ。忠告しておこう。まず第一に、父の奴隷に手を出しているのがまずい。そして第二に、私はまだ父の群れに所属している。そんな私に手を出せば、龍王である父を敵に回すことになるかもしれないぞ」
「貴族ってやつは、何かあるとすぐに親がどうだ、爵位がどうだと語りだすから困る。いざという時に親に泣きつくような根性なしが二年の首席? 悪いが、ぶん殴る価値すら見出せないほどに
余裕を崩すことのなかった
湧きあがる闘争心に高揚すら覚えながら、
「だが、どちらにせよ
「いいのかい? 父を敵に回したら、黒陽公主まで巻き込むことになるよ」
「もしここで
妹の安否が争点となっているはずなのに、我関せずという態度はどうにも不自然だ。まさか妹に興味がないのか――と、
「つまり、どうあっても私と敵対すると?」
「
「奴隷に命を賭けると。そう言いたいのかね、君は」
「
と、そこで。
「どう思う。
「あの子が選んだだけあって、なかなか
「つまり?」
「合格……でしょうか」
ふむと
「勘違いしているようだから訂正しよう。私はあくまで『
「あん?」
息巻いていたところに
「だったら、龍王を敵に回すとかそういう脅しはいらねえだろ」
「必要だよ。君を試すためにはね」
その上から目線の物言いに腹立たしく思いつつ、けれど、どこかほっとしている自分に
が、隣から伝わってくるわずかな振動。怯える
「首席様だか龍王の息子様だか知らねえが、だったら
百歩譲って、
「黒陽の姉だっていうから、今まで遠慮してきたが。この際だから言わせてもらう。公主だからって何をしても許されると思うなよ」
それは
奴隷への配慮を要求する
「さきほどの話は仮定の話だが、しかし全くのデタラメというわけでもない。彼女は紛れもなく関係者なのだよ」
「あのな。自分一人だけで納得してないで、わかるように説明してくれ」
長い足を
「では、単刀直入に言おう。私たちと同盟を結ぼうではないか」
「は?」
敵対的とも取れる姿勢から一転、同盟という思いもよらぬ単語が飛び出し、対決姿勢を鮮明にしていた
「おや?
「……俺にも外交ごっこに加われってのか」
「俺は上院に喧嘩を売りにきたんだぜ。はっきり言って、二学年首席のあんたもそのターゲットに入ってる。それを仲良く馴れ合えって言うのか」
「これは馴れ合いでもごっこ遊びでもない。私は真面目な話をしている」
「そうですわ。
「実力を認めてって、俺たちはまだ戦ってないだろ」
「戦わずして相手の技量を見抜くのも才能よ。その点、貴方は――」
「あの黒陽公主が
「敵対っつっても別に殺し合うわけじゃないだろ。二学年の首席にしては少し腰が引けすぎじゃないか」
「さきほど
無性に喉が渇き、出された茶を
「同盟って言われても、俺には何が何やら」
「無論、すぐに結論を出せとは言わない。だが、
果たして、ここでいう”同盟”とは人間社会でいうところの”同盟”と同じものなのかどうか。
奴隷の概念も少しばかり違ったので、完全に同一と考えるのは早計である。
しかし、龍皇陛下でさえも外交努力をしていることから考えて、同盟を結ぶこと自体にそこまで抵抗感は――
「いや、心理的に抵抗感ありまくりだろ。あんたらの印象最悪だよ」
最初から同盟を切り出してもらえていれば、
不快感を隠そうともしない
「もし同盟を結んでくれるのであれば、
「交換条件ってわけか」
「私の誠意だと思ってくれ」
ここに来てようやく、
同盟に合意しなければ、
「へえ。学生とは思えない大人の
「勘違いしないでくれたまえ。私は君と事を構えたくないのだよ」
「二学年の首席様にそこまで言ってもらえるなんて光栄だな」
「外交は遊びではないからね。特に、将来の龍王候補と同盟を結べるのなら、それは破格の条件だと言える。多少、汚い手を使うぐらい許してもらいたいものだ。それだけ君を高く買っている、ということなのだからね」
「買い
チラリと隣を見る。
捨てられた子犬のような目でこちらを見上げる
その不安を横目に見て、
「他に選択肢はなさそうだ」
「でも、ご主人様」
「問題ない。それで
「では後日、同盟締結書に署名・捺印してもらおう」
「黒陽にも同席してもらうぞ」
「もちろん。そうしてくれたまえ」
不正の入る余地はないのだと、両手を広げた
そして上機嫌となった彼は、付け加えるようにして言った。
「あるいは君が望むのであれば、他の奴隷への待遇を改善してもいい。どうかな」
「他の奴隷っつーと、あんた付の奴隷のことか」
「私だけではない。上院全体の奴隷への待遇改善だな」
「んなこと、本当にできんのか」
「私と君の力が合わされば可能だ。なにせ上院の勢力図は、これで大きく変わることになるのだからね」
一学年男子トップ(暫定):
一学年女子トップ:黒陽。
二学年男子トップ:
二学年女子トップ:
この同盟を機に、一気に上院最大
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