第76話 上院一学年統括・氷理教諭の試練
空に突き出た
堅牢な城門を思わせる正面玄関。
整然と並んだ
上院の本校舎はとにかく大きかった。何もかもが下院よりも豪華で、そして広い。教師の私室も本校舎にあり、
ぐるぐる眼鏡にそばかすの鼻。なぜか
なんとも個性的な様相の教師は、「やぁやぁやぁ、よく来たね」などと言いながら、
そこは下院教師の私室とは比べものにならないほど、広い部屋――のはずだった。しかし、広いはずの室内は足の踏み場もないほど、本がそこここに積み上げられていて、視界に広がっている空きスペースはとても狭い。圧迫感を受けるほどに手狭だ。
人一人がぎりぎり通れるぐらい。本に挟まれた獣道を案内されて、最奥に置かれた執務机へ通される。机の上にも本が雑然と並べられ、天井にまで達そうとしていた。よく見れば、執務椅子までもが本に埋もれてしまっており、もはやその用途を果たせそうもない。
「そこらの椅子にかけてくれたまえ」
疑問符を浮かべながら、
立ち尽くす
「おい、ちょっと待て。本を尻に敷くってのはどうなんだ」
「別にいいでしょ」
「いや、よくないだろ。どう見ても貴重な本だぞこれは」
年季の入った革張りの古書。その一冊一冊が値の張る代物であろうことは容易に想像がついた。
「別に構わんよ。君も早く座りたまえ」
ほらね、と
「話は聞いているよ。君が黒陽公主の婚約者だね」
「はい。
「加えて、
「いえ、こいつは……ただの案内役ですよ」
右隣から殺気が飛んできたが、
「興味深いねえ。いやぁ、実に興味深い。
「お姉様が認めたのなら、そうなのでしょう」
短い。素っ気ない答え。その
「そうだねえ。黒陽公主ほどの人物が、人選を見誤るとは考えにくい。そこは私も同意しよう。しかし、ねえ……」
分厚いレンズ越しに
「学園長はひどくご立腹のようでね。君を叩き潰して自信をへし折るように指示を出されているんだよ」
ざわり、と
自然と口角が吊り上がる。
「俺は構いませんよ。むしろそう来てもらわなきゃ困ります」
――上院で喧嘩を売って来い。
それが
この対決姿勢に
「いいね、実にいい。意見の相違は力でねじ伏せる。まさにそれこそが、龍人男子本来の姿だ。弱き者に人権はないが、強き者はすべてを手にする」
だけど、と分厚いレンズ越しに
「君にその実力があるのかは
「だったら試してみればいい」
「ほう。相当自信があるようだね」
「当然ですよ。俺の実力は、黒陽のお
「よろしい!」
白の
「ならば付いてきたまえ。次の授業は私の担当だ」
◇◇◇◇◇
床面と壁面は分厚い白龍石のブロックで構成され、魔術加工によって防御力にバフがかかっている。この強度ならば、第一実験室と同様に
「床や壁だけではないよ。
白亜の空間に真っ直ぐ引かれた黒線。そこから三十メートル先に
すでに授業は始まっているようで、上院生たちは今、仕切り板ごとに列を成して順番待ちをしている。
「
「下院で使われている
公主様の武装
縦に長い
「はいはーい。一旦、手を止めて注目ー」
「今日からしばらく上院へ仮入学することになった
ざわざわと上院生たちが
困惑の色合いが強いが、無理もないだろう。通常、転属は進級時に行われる。学期の途中で上院へ昇格することは滅多にないそうだ。
「だからこそ、実力を示してもらわなければならない。そうだね?」
「俺が上院でも通用すると証明できれば、正式に昇格できるんでしたね」
「ああ、その通りさ」
上院生たちはヒソヒソと何かを話し合っているが、表だって
ぐるぐる眼鏡を
「ならば君の
さらっと無茶な要求を突き付けてきた。
適性属性のない
上院生たちは、まだ
もし
「ここから、あの
それは不本意ながら正論だった。
適材適所。公主様は、自分が代わりに
(こんな俺を信じてくれた黒陽のためにも、ここは一歩も引けない)
「ほう。怯むことなく行動するとは見上げた度胸だ。しかし、ここからどうする。君にはどうしようもないと思うのだがね」
「
「ああ、見事射抜くことができれば、合格としてあげようじゃないか」
「その言葉、忘れないでくださいよ」
脇に差していた模擬刀を引き抜く。
「
無言のまま、
不意に、
鍛え抜かれた筋肉をしならせて、津波のような《剣気》を宿した棒切れを大きく振りかぶる。何が始まったのかと
口をあんぐり開けて、その場でフリーズしてしまった
「どうですか、先生。これが俺の
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