第93話 禁軍統領
降り注ぐ
四角い窓から息を
村が燃えていた。
模擬戦などではない。真剣を使った
「龍皇陛下のお
黒一色の龍衣。肩口には金糸で”
その正面。剣を向けられた男は、追い詰められた民家の壁を背に
「強制
男の名は
間近に迫る死の恐怖に、
その泣き顔に対し、
「うわああああああ!?」
長髪の美男子が口角を歪め、せせら笑う。
「強制
「ふざけるな! 龍皇だからって手当たり次第に村を焼き
「手当たり次第? 片っ端から? まだ未熟な若い群れを襲い、手当たり次第に隷属化していたのは貴様らの方だろう」
ぐっと
長髪の美男子が失笑を漏らす。
「自分たちは自由に隷属化するが、自分たちが隷属化させられるのは
再び
「なぁ、俺たちは龍皇の縄張りを犯していない。そうだろ!?」
それを見た
「陛下の群れに奴隷は存在しない。貴様の妃も、その部下もきちんと人として扱ってやる。だから安心して死ね」
◇◇◇◇◇
――
それは龍皇直轄の精鋭部隊である。
妃たちに任せられない
上級貴族との戦争になれば、その
ダーティに
そんな泣く子も黙る禁軍を
龍皇領の住民からは、そのクールで知的な
現在は、
「これで六つ目か」
森の中にひっそり立てた野営キャンプ。
一仕事を終えた
「統領。そんな辛気臭い顔をしていたら幸運が逃げますぜ」
「そうですよ。ただでさえ統領は陰気な
禁軍のナンバー2とナンバー3。同席した副統領の二人が、からかい交じりに冗談を飛ばしてくる。禁軍が結成されて数十年。創設メンバーで生き残っているのは、彼らと
「
黒衣の男たちは、闇に溶け込むように焚火を囲んでいる。
「他の群れを襲って奴隷にしようって
「昨今では、平民風情まで貴族の真似事をするようになっちまった。時代の流れといやぁ聞こえはいいが、ただ単に迷走しているだけに俺ぁ感じますね」
男たちは
男ばかりの禁軍に
禁軍に所属する男たちは、龍皇の
「随分と
ぐいっと酒を
冷たい夜風が吹き、
「捕らえた女たちはどうしている」
ちょうど、夜闇の中を松明を持った禁軍が巡回しているところだった。その最奥にある大きな幕舎を
「大テントに押し込んでますぜ。入口に警備はつけてますが、拘束はしないでおきやした。問題があるようなら、ふん縛りましょうか」
その提案を受け、
主人を失った龍人女子たちは大別すると三つに分けられる。1:主人に殉じてあくまで抗う者。2:主人を失った時点で抵抗を諦める者。3:従順に従うフリをして
1と3は六妃に多く、その他の
捕らえた女たちの身分を勘案し、
「いや、不要だ。逃げたいのなら逃げればいい。我々の目的は支配ではないからな。はぐれを希望するのならば、好きにさせてやれ」
と、
「ただし、敵対行動を取るようなら殺せ。こちらに人的被害が出るのは許容できん」
必要とあらば、冷酷な決断を下すことも
それが『氷の貴公子』と呼ばれる
了解、と副統領が応じたところで、バサバサと鳥の羽ばたく音が頭上から降ってきた。
「陛下からの伝令ですか?」
「しかし、黒鳩とは緊急のようですな」
足に
その短い文章に視線を落とした
「
◇◇◇◇◇
「
「そうよ。陛下直轄の精鋭部隊が禁軍。統領はそのトップよ」
寂れた森の遊歩道。待ち合わせ場所から少し進んだ先にある、小川を挟んだ小さな橋。その
「なんで俺が、そのトップと戦わなきゃならないんだよ」
「あんたが強すぎたせいよ」
「強すぎたって……そりゃないだろ。いくらなんでも理不尽すぎる」
「三段跳びで駆け抜けてしまった
「強いのか?」
「ええ、間違いなく。単独で
龍公クラスという言葉に、
龍公クラスとは、爵位上は龍公に届かないが、実力は龍公に
「黒陽に言われたことがある。あなたの剣術の腕は龍公クラスだって」
「そう……お姉様の見立てだったのね。だから
いつもの強気が
森の陰気な雰囲気がそう思わせるのだろうか。その
「ま、決まっちまったもんはしゃーねえさ。誰が相手であっても、勝たなきゃならないのは卒業後だって同じだからな」
拳を振り上げて高らかに宣言する
「って、おい。リアクションしてくれないと
ふと、
「
その実力は、単独で龍公の
「ここであんたが命を落とすのは、あたしもお姉様も望んでいないわ。だから死なないで。今、あたしに言えるのはそれだけよ」
そこで
「あたしは……この提案を断っても良いとさえ思ってる。
普段は向こう見ずな勝ち気な少女なだけに、その言葉は重く胸に響いた。
しかしそれでもやはり、
「前に言ってくれたよな。自分がどういう立場で、何を
ショッピングモールにて。お金を稼ぐのは女の仕事だと。財力など後からどうとでもなると。金欠に
「俺が
力強くうなずき、
「確かに理不尽だとは感じる。反発してノーを叩きつけたい気持ちもある。だけど、黒陽を娶るためには我慢しなくちゃならねえ。卒業後の
その
「それはそうだけど、相手が……あまりにも悪いのよ」
「らしくない。
「あたしだって、時と場合ぐらい考えるわ」
ぷいっとそっぽを向いて、うつむく
勝気な少女の知られざる一面を見た気がして、
その態度が面白くなかったらしく、
「おまえの助言があったから、俺一人でも同盟の決断ができたんだぜ。
うつむき加減の
それは
「――なによ。結構、いい男じゃない」
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