第四章 公主様との婚約を認めさせるまで
前編:上院編
第73話 推薦状
暗がりの空き教室。
「それで
「
長身の女教師の言葉に、低身長の幼女教師がコクリと頷いて応じた。
「では、賛成ということで良いんだな」
「はい、いいですよぉ。でもぉ
「奴の剣術の腕は確認した。あれなら超一流と銘打ってもいいだろう。どうりで黒陽公主が惚れこむわけだ」
「つまり、上院でも通用するとぉ?」
「ああ、十分いけるはずだ」
二人の女教師は同時にニヤリと
◇◇◇◇◇
エレシア・イクノーシスの事件から三ヶ月が過ぎ、季節は初冬に入っていた。
分厚い石壁造りの
寒々しい灰色の室内には冷気が満ちている。
「失礼します」
と声がかかり、準備室の鉄扉が開かれた。
姿を現したのは金髪に青眼の少女。西方の給仕服である黒のメイド服に身を包み、トレイに乗せたティーカップを三つ運んでくる。慣れた手付きで応接テーブルへティーカップを三つ置くと、銀のトレイを胸元に当てて彼女は
「ここはもういいですから、休んでいいですよぉ」
「はい。あの
「またですか? 仕方ないですねぇ」
助手として雇った少女を見送り、
「それで? わざわざ呼び出して要件はなんですの」
幼女体型の
「推薦状を出そうと思う」
単刀直入な、けれど説明不足なその言葉に、
「
「
「はぁ!?」
「どうしてあの生徒の推薦状の件で、わたくしを呼ぶ必要がありますの!?」
「上院への推薦状は、教師三名の同意が必要だ」
三角眼鏡を人差し指で持ち上げて、しれっと
「そんなことは百も承知ですわ! わたくしが言っているのは、なぜこのわたくしがあの憎たらしいガキのために協力しなければならないのか、ということです」
「他の教師では駄目だ。頭が固すぎる」
「あの生徒を一番毛嫌いしているのは、わたくしだと知っているでしょう」
「だが、なんだかんだ言っても
「公平? どこをどう判断したら上院への昇格が妥当だという結論になりますの」
応接テーブルを挟んで対峙する二人。
「でもぉ
エレシア・イクノーシスの事件は学園へ大きな
魂転化の解呪に成功したため、最終的に人的被害はゼロだったものの現役の教師が被害に
なにせ、六妃に次ぐ実力者「
しかも仲間の
「その汚名をそそいでくれたのが
ティーカップをカチャリと置いた
「無能だと思っていた生徒が実は誰よりも有能だった、なんて認めたくないですよねぇ」
「わたくしの目が節穴だったと?」
「いいえ、わたしたち教師全員の目が節穴だったのですよぉ」
認めねばなるまい、と
「適性属性なしという情報に踊らされて、適切な評価を行えなかった。それは教師全員の責任であり、
「あの生徒がそこまでの
「黒陽公主の武装
「はぁ……?」
厚化粧を歪ませて、
「模擬刀で防げるわけがないでしょう。馬鹿にしていますの?」
「信じられないのも無理はない。だが事実だ」
「公主様の
「エレシア・イクノーシスに操られていた黒陽公主を無力化したのが
「抜け目のない公主様はぁ、映像記録用の装身具もつけていたのですぅ。だから、公主様の武装
「…………」
牢獄のような部屋に重い沈黙が降りる。
「学園のシステムにも問題がありましたぁ。各科目が100点満点だとしたら、
「うむ。
「仮にそうだとして――」
視線を落としていた
「百歩譲って学園の評価システムに欠陥があったとしましょう。けれど、1000点の剣術が、各教科100点満点に相当するとは限りませんわ」
「わかっている。剣術が得意なだけでは通用しない。だからこそ私は、下院の教師に甘んじているわけだからな」
「ならば、言うまでもないでしょう。上院の生徒は、
「ああ、そうだ。だが、そのバケモノの一人が黒陽公主だということを忘れるな」
「公主様は一学年の首席ですからねぇ。全学年通して最強との呼び声も高いですぅ。そんな最強格を無力化したのだから、実績としては十分ではありませんかぁ」
悔しそうに歯噛みしていた
「…………わかりましたわ。ひとまずその件は良しとしましょう。ですが」
「
「無論、知っている」
「だったら――」
「私たちは公平でなければならない」
ピシャリ、と
「無論、学園を運営する上で多少の
「ですが、
「わかっている。
「この件については、学園長も納得されると思いますよぉ。なにせこのままでは、
「
「とするとぉ、残る手駒は上院の生徒しかいませんよねぇ。この話は、
そして
「それにこの件についてはぁ、わたしたちにもメリットがあるのですよぉ」
――――――――――――――――――
第四章の開幕となりますが、皆様へお知らせです。
第四章は当初想定していたよりも大分長くなってしまいました。ですので、休載期間を長引かせないためにも、前編と後編に分ける措置を取りました。
現在、前編のみ執筆が完了している状況であり、前編だけで約13万文字あります。また前編と後編の概要は以下のとおりです。
前編:上院編
後編:アルガント帰省編
麒翔の適性属性などの謎は、後編のアルガント帰省編で明らかとなります。引っ張るような形になってしまい申し訳ありません。
ひとまず、前編をお楽しみください。
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