ねがいをこめて。

赤ちゃんが笑っている。


白い部屋。

日の光がベランダから、薄いレースのカーテンを照らしている。

爽やかな夏の風が、風鈴の音とともに、草花の香りを運んでくる。


優しく吹き込む風に、お母さんの髪が揺れている。

窓に近いソファーで、赤ちゃんを抱っこしている。

お母さんも、幸せに笑っている。


赤ちゃんが甘えている。んー、と声を出して、お母さんの胸に顔を埋めている。お母さんは幸せそうに、どうしたのー?と聞きながら、赤ちゃんの背中をぽん、ぽん、と優しく撫でる。


マーマ。赤ちゃんがお母さんを呼んで、幸せそうにまどろむ。はぁい、とお母さんがそれに応えてほほを寄せる。赤ちゃんに優しくちゅ、とキスをすると赤ちゃんは、んー、と、猫がごろごろと喉をならすように、幸せそうにお母さんにぎゅっと抱きつく。


夏の風が、爽やかに吹き込む。

日の光が、優しく、暖かく、レース越しに控えめな祝福を贈る。


幸あれ、幸あれと。

この子の未来に、幸あれと。


僕は笑っている。

空の星になった僕は、日の光が優しく差し込むように、雲で薄い影を作っているんだ。


幸せが続きますように。

ずっと続きますように。


ねえ、赤ちゃん。

君のお母さんの愛の中ですくすく育つんだよ。

沢山友達を作って、楽しく生きるんだよ。

辛いことがあっても、皆が君を守るから。

秘密のことができたら、何も言わないから、僕にこっそり教えてくれたら嬉しいな。


見守ってほしいときは、いつだって。

見てほしくないときは、どこかへ消えているから。


ああ、かわいい赤ちゃん。

お母さんになった、僕の友達の腕の中で眠る、かわいい赤ちゃん。


どうか、幸せに生きるんだよ。

そしていつかは、自由に生きるんだよ。


君に幸あれ。

目一杯の、幸あらんことを。


ベランダを、風が通り抜けた。

風鈴の音がする。

きっと誰かの子守唄のように。


そんな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

漂流 津田 実 @tsuta44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ