第4話 ぼくの名前ははちみつになった。

私は家に帰ると明かりをつけずにMATSUとワタルとよく話し合ってた部屋からMATSUがよくつけていたノートを見つけた。

それをリビングに持ってきて、携帯の光でノートの文字を1文字ずつ涙を流しながら、私は見ていた。

MATSUの字。

MATSUが書いた字。

私はMATSUのことを何にも知らなかった。

MATSUの気持ちさえ、知らないで今になってMATSUのことを知ろうなんて身勝手だ。

そのノートの始めにこう書かれていた。


『僕らはピースナッツ。夢は世界でコンサートを開くこと。それまで、絶対に死なないぜ』


MATSUのノートは全部、MATSUが考えてた曲のタイトルや歌詞が書かれていた。

MATSUは本当に音楽が好きで堪らなくて、あいつにしか描けない未来を思い描こうとしていたみたいだった。

でも、MATSUの夢は5冊目のノート半分で物語が終わったような最後だった。

最後の1ページに書かれていたのは、なぜか予見していた事実を遺書のように残した言葉だった。


『10月5日

今日、僕の人生が終わるかもしれない日。

今日に限って雨かよ。

本当についてないわ。

ワタル、今までついてきてくれてありがとうな。

理玖、お前は最高の歌手になれよ。お前が次のボーカルだ。

ぼくは死にたくねーけど、こないだ占い師に言われたんだ。

ぼくは、10月5日が命日になるってさ。だから、最後にセカンドシーズンの主役はりく、お前だよ。ぼくの代わりによろしくな』


なんだよ、この馬鹿馬鹿しい文章はなんなんだよ。

なんで、MATSUは占いなんて信じてるんだよ。

こんな終わり方ないだろう。

もっと、あいつとあいつと音楽やりたかった。

いなくなる前にこんな置き手紙でつらい別れ方をかわそうとするなよ。

本気で死ぬって分かってるなら、最後ぐらい私に話して欲しかった。

私は...わたしは、MATSUに...生きてて欲しかったよ。

そんな心の声を噛み締めながら、携帯を握りしめながら、ストンと床へと尻もちをつくと携帯の光の先にはMATSUとワタルと自分で撮った大切な写真がロック画面に映った。

理玖は小さく呟いた。


『しにたい。わたしもあいつのもとに行きたい』


その声に猫は反応して理玖の元に行った。

猫は理玖の足元で鳴くように、話した。


『死ぬ時は一緒だよ。だから、死なないでください。ぼくがついてます。なので、猫缶の高級なやつをぼくにください。お願いしますにゃー』


理玖は泣き顔のまま、少し亡霊のように立ち上がり玄関に転がった猫缶を拾い集めて、真っ暗だった部屋の中でキッチンだけが神々しく光った。

その明かりに少し、理玖は驚きながらも高級な猫缶を取り出してお皿に入れて少しだけほぐして、猫様にあげた。

猫様は喜ぶように猫缶の周りをぐるりと回った後に、ムシャムシャと食べ始めた。

その様子を間近で見ていた理玖はおもむろに携帯でその猫様の写真を一枚撮った。

そして、猫様に言った。


『あの、猫様。この写真、ブログにアップしても良いですか? それから、猫様は名前なんて言うんですか?』

すると猫は口をもぐもぐしながら言った。

『ぼくの名前はない。ないからつけてくれないか』

本当は名前があったが、言うとめんどくさいので言わなかった。

いつか、ぼくがMATSUだと話そうと思う。

信じてくれるかはわからないがにゃー。

すると、さっきまで亡霊のようだった理玖が、うーんと考えて言った。

『蜂蜜、はちみつはどうでしょうか。かわいいでしょ。じゃあ、これからよろしくお願いします』


そう言って、彼女はブログにはちみつの写真と共にある文章を載せた。

『みなさん、お久しぶりです。理玖です。まだ体調があまり良くはないんですけど、きょうは私の猫様を紹介します。はちみつちゃんです。みなさん、これから度々ブログ更新もしようかなって思います。それじゃ、またねー』

更新したブログは約6ヶ月ぶりだった。


ブログを更新しただけで、理玖はまた眠ってしまった。

その姿に、はちみつはとなりで理玖のブログを眺めていたら、ブログにメッセージが一件あったので開いてみると、そこには応援メッセージが書かれていた。

『ブログ更新してくれるだけで、嬉しいです。無理はしないでください。時々で良いので、ブログ更新して下さい。はちみつちゃんかわいいです。ピースナッツの活動再開待っています』


はちみつになったMATSUはニヤニヤしながら、皿を片付けて、ゴロリとお腹を出して理玖の隣で眠りについた。




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猫と蜂蜜 ソノハナルーナ(お休み中) @eaglet

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