第3話 猫缶は高級なものでお願いします。

気がつくと目の前に猫がいた。

えっ、ねこ。

起きるとそこには変わらぬ顔をした猫が二足歩行で立っていた。

ねこはまるでぬいぐるみの様で触りたくなったが、グッと堪えてこの状況を整理しようと頭の中で考えたが、どうしても猫が二足歩行で喋ることに違和感しかなくて、頭の中は大混乱だった。

そんな私の考える様子を見て、猫は心配そうに言った。


『もしかして、ぼくがこの部屋を明るくしたことに困っていますか? それなら、謝ります。ごめんにゃさい』


私はへっ...?

と思い、周りを見渡すと昨日まで散らかっていた部屋がきれいに整頓されており、しかも私にはブランケットが足にかかってた。

もしかして、この猫は万能ネコなのかと思うと同時に、猫ってこんなにいい奴だっけって思ってしまった。

私の知ってる猫は気ままで人懐っこいというより、どちらかというと塩対応な猫の方が多いのに、この猫はなんて素晴らしく腰の低い猫なのだろうと思った。

私はこの猫にいたく感動して、玄関で改めて正座をして猫の目線に合わせていった。


『ねこ様、本当にありがとうございます。あなたのおかげで私の部屋が、とっても良くなりました。あなたにはなんてお礼を言っていいか分かりませんが、とりあえずご飯食べていきますか? あっ、でも猫って何を食べるのでしょうか。私、あまり猫が何を食べるか知らなくて。ねこ様はどのようなものがお好きですか?』

すると猫は頬が赤くなり、目を隠すように言った。

『ぼくは、恥ずかしいです。ねこ様とかそんな神様でもないです。ぼくはただの捨て猫です。それに、神様なんてやめて下さい。ちなみにですが、ぼくが好きなものはキャットフードの高級なヤツです。あっ、でも用意出来なくても大丈夫です。無理なら安いヤツでも全然お口に合いますので』


すると、理玖はいきなり立ち上がり傘を持って、飛び出すように外に出ていきました。

きっと、猫のために外に出たのでしょう。

猫は理玖が外に出ている間に、ゴミ箱に捨ててあったMATSUと理玖とワタルの姿が写ってる写真を見て言った。


『理玖、お前にずっと会いたかった。やっと会えたのに、お前が見てる僕の姿は猫で僕じゃない。でも、やっとお前に会えた。それだけで、いい。もう、何もいらない。でも、今のあいつは僕の知ってるあいつなのかな』


その頃、コンビニで急いで猫缶を吟味していた理玖だったが、理玖の後ろでパンを選ぶ2人組の男子高校生が丁度亡くなったMATSUの話をしていたのを理玖は聞いてしまった。


『なあ、ピースナッツのMATSUが亡くなったんだって。俺さ、ピースナッツの曲の中で幽閉堂とかソラシドネットとか超好きだった。MATSUの声がさ、マジで神ってて俺、大好きだった』

『まじかよ。でもさ、ピースナッツって今は活動休止になったよな。俺的にはボーカル居なくなった時点でピースナッツの世界観はもう終わったと思ったよ。だって今出てる噂的にはさ、理玖さんがボーカルするんじゃないかって言われてるけど、MATSUがいてこそのピースナッツだろ』

『うーん、確かにそうだけど、俺はそれでもピースナッツを応援するよ。俺の中ではピースナッツは永遠に推しなんよ。ボーカルが代わろうともピースナッツは永遠に神なのよ』

『お前、やべーな。まあ、俺はピースナッツのファンやめるけどな』

『どうぞご勝手に。てか、お前と喋ってたら、腹立ってきたわ。パン買うつもりだったけど、俺帰るわ』

『おい、待てよ。なあ、ヨシト』

2人が帰った後、猫缶を買いながら深く被った帽子の中で理玖は1人声を殺して初めて泣いた。

ピースナッツのファンは私たちを見捨ててなんてしてなかった。

見捨ててるって決めつけたのは私の方だった。

私は涙を拭い、深く息を吐き、レジで猫缶を買って、家に帰る途中の雨の中で私は高校生たちの本音が思い出すたびに耳にハウリングしながら、また泣いた。

私よりもMATSUは自分たちの音楽をどう考えていたのか知りたくなった。


涙は乾き、ただ知りたい。

あいつのことがもっと知りたいと思い、家に全速力で走って帰った。

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