第2話 無理の反対はリムると同じこと。

理玖は玄関で夢を見ていた。

それは、高校生の時の話だった。

MATSUとワタルがバンドに誘ってくれた時の夢だった。

MATSUは高1ですでに痛い奴だったことだけは覚えている。

MATSUのロールモデルは自分という何とも言えないナルシストぶりを発揮する男の子だった。

それに比べて、MATSUの相方のワタルは物静かで体格が大きくて多くの体育会系の部活からオファーが来ていたのに、それさえも全て断っていた。

私たちの通っていた学校には軽音部がなかった。

だから、MATSUはワタルと一緒に仲間を集っていた。

よく、校門の前で生活指導部の先生にビラ配りを辞めなさいと怒られていたのを覚えている。

あの時、あいつと目が合わなければもしかしたらわたしは誘われていなかったのかもしれない。

だけど、あいつは先生に怒られてもなお、私を見て言った。

『なあ、僕らと軽音クラブで世界目指さねえか。確か隣のクラスでよく1人で激しめの音楽聴いてるよな』

まさかの声かけに狼狽えながらも、私は断るように言った。

『でも、私は今は合唱部で歌うことしかやってないし、楽器とか触ったことないし、無理だよ』

すると、MATSUはMATSU理論で話してきた。

『無理ってさ、カタカナに直すとムリだろ。それで、後ろから読むとリム。しかも、そこにるが入るとリムるになる。つまりはフォロー解除するって意味だろ。お前はまだ僕らの仲間にもなっていないのに、無理しかもリムるのかよ。なあ、一度でいいから僕とワタルと一緒に舞台に立って歌ってくれよ。それから、フォロー解除するか考えてくれよ。なあ、一生のお願いを今聞いて欲しいんだよ』

私は彼の真摯なお願いとMATSU理論に毒されて、承諾した。

文化祭の日、私は3人で初めての舞台を踏んだ。

一曲だけ披露したその曲は今でも覚えてる。

米津玄師さんの『灰色と青』だった。

あの日、ギターを持つMATSUと私とドラマーなワタルの異色のバンド名はピースナッツだった。

これが、私とMATSUとワタルのバンド人生の始まりだった。


あの日の記憶、思い出が私の夢の中でいつまでも残った記憶になった。


MATSU、

あいつに会いたいよ。

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