二十六 追想が尽きて

「どうしたのかな?」

 急に静かになった捧を不思議に思ったのか、砂京が首をかしげた。

「……いや、何も。昔のことを思い出してただけだよ。アンタが言うから、つい」

 短い時間で、記憶が走馬灯のように駆け抜けていった。

 華煌にいた頃と今の状況は、似ていると思った。力ある者の言いなりで、妖力を持たない捧はとにかく弱くて。助けてほしいと願っても孤立無援で。悲劇の主人公気取りのただの弱者だ。

 違う点もある。今度の捧の持ち主、砂京は、生活面では淵衰よりも良心的な扱いをしてくれそうだとか――由羅が助けに来てはくれないだとか。

 あのときは、由羅との出会いという偶然の幸運に巡り会えたが、今回は話が違う。伸ばされた由羅の手を、捧は自ら振り払ったのだから。ひとり感傷に浸った。

「ふうん……まあとにかく、君と僕は同じ華煌に所属していた。直接関わりはないけど、君たちのことはかなり知ってるつもりだよ。担当は臓器だったし、かつての上司も淵衰で、同じだから」

 もはや驚くのも飽きてきた。砂京が華煌と関係があると知ったところで、そうかと飲み込めてしまう。感覚が麻痺していた。

「……かつての上司を、殺そうって?」

「うん、淵衰にさほど恩義はないし」

「その割には、幽暗朔月にまでついてきてるじゃないか」

「恩義じゃない。利益だよ、利益」

「オレを取り込みたいのも利益目当てか」

「まあそうだね。本当にすごかった……騒動が恐ろしいと同時に、あれだけの力が自分の武器であったなら、どんなに強いかと夢見た。ほとんどの構成員は、組織に思い入れなんてなくて、制裁も考えなかったんだろうね、流されるまま散り散りになった。逆に好都合だったよ、僕がゆっくりと、好きなだけ機会をうかがって、君たちを狙えるから。そしてこうして、幽暗を奪うという面からも、頭領に不調が出る、一番いい機会を捕まえることができた」

「そんなに、オレが必要だったのか」

「ああ。昔から、華煌にいるときから、実はほしかったんだ。ほら、今までも何度も言ってきただろう。君と由羅くんを引き抜きたいって」

 眉間に人差し指が突きつけられる。

「冗談だとでも思ったかい? 大間違いだよ、僕はずっと本気だった」

「……う」

 意味のない声が、床へと落ちた。

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