夜に沈む 12

 よく晴れた青い空の下を、水上汽車は水飛沫を上げて海の上を走っていた。アズーロの白い島影がぐんぐん遠ざかっていく。

 島に来たときと同じように私は窓際に座り、向かいの席には真白と黎が座っている。この前と違う点といえば、私の隣の席に大量のお土産が積み上げられているという点だろうか。


 三日前、洞窟から碧水晶を持ち帰った私たちを見たアルマ夫人は、感激のあまり涙を流し、私の頭上にキスの雨を降らせた。彼女の喜びようはすさまじく、ヒノモトに帰ろうとする私たちを(半ば強引に)引きとめ、三日間毎日私たちのために豪勢なパーティーを開いてくれたのだ。


 机の上には見たこともないような豪華な料理が並び、舞台上ではきらびやかな衣装の踊り子たちが、私たち三人のために美しいダンスを披露していた。

 もちろん最初のうちは楽しかったのだが、三日も続けられるとさすがに気が引けてくる。私たちは、“もっと滞在してくれて構わない。なんだったらここに住んでもらってもいい”と言うアルマ夫人を説き伏せて、なんとかこの汽車に乗り込んだ次第である。


 夫人がくれた抱えきれないほどのお土産は現在、私の隣の席に鎮座している。

 このお土産はもちろんだが、パーティーの費用だって決して安くはないはずだ。それなのに夫人は惜しみもなく私たちのために使ってくれた。それだけ碧水晶を大切にしていたということだろう。


「あっという間の五日間だったね」私が言う。アズーロでの日々は目まぐるしく過ぎ去り、心地よい疲労と充足感が私の身体を包み込んでいる。

「まさか俺の嫁さんがあんなに切れ者やったとはなあ。ますます惚れ直したわ」

「ナオがいなければ、この事件は解決しなかっただろうね」

「偶然ひらめいただけだよ。本当にたまたま」私は照れくささから、慌てて話題を変えた。「結局、碧水晶はアルマ夫人のもとに返しちゃったけど、よかったの?骨董屋の仕事としては骨折り損じゃない」

「それに関してはいつものことやし、気にしてへんよ。十回旅に出て一つでも骨董品を手に入れられれば、いいほうなんや。それに今回はナオと一緒に旅行できたから、むしろ儲けもんや」

「ナオのかわいい寝顔も見られたし」真白が付け加える。

「えっ、真白にも見られていたの!?」私は驚いて声を上げた。お調子者の黎はともかく、真白にみられるのはものすごく恥ずかしい気がする。「ていうか、せっかく忘れかけていたのに思い出させないでよ」

 黎が私の方に身を乗り出して言う。「涼しい顔に騙されたらあかんで。こいつはナオが思ってる百倍むっつりスケベやから」

「スケベは良いが、むっつりはやめろ」と真白。

「なんでスケベは受け入れてんねん」

 車内に三人の笑い声が響く。


 アズーロの島ははるか彼方に遠ざかり、車窓の向こうには青い空と海のほかにはなにもない。

 アズーロの街へ別れを告げるかのように汽車はひときわ大きな汽笛を鳴らした。



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二人の夫とのんびり奇妙な異世界骨董ライフ 三三九度 @sunsunkudo

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