第18話 王太子殿下

 お茶会は無事終了。

 とても有意義な時間だったと思う。


 側妃様達はお茶会終了時には、「命の灯火消えかかっていない? 大丈夫?」って心配になるくらいまでぐったりしていた。

 1時間くらいのお茶会が永遠の時間に感じただろう。


 まぁ、これで王太子妃殿下の生活も落ち着き、お義理母様も心置きなく執筆に挑める!


 これでハッピーエンド。終幕。


 ……って、思ったんだけど、数時間後。


 公爵家に王太子殿下がやって来たので、私とお義理母様は執事にその旨を聞き応接の間にいる。

 私とお義理母様が横に並び、テーブル越しのソファに王太子殿下が座っている。


 たぶん、王太子妃殿下に事情を聞いたんだろうなぁ。

 すっごく顔色が悪いし、目が虚ろだし。


「叔母上、ソニア。このたびは俺の不徳の致すところです。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 王太子殿下が深々と頭を下げる。


 やっぱり、王太子妃殿下に聞いてきたみたい。

 王太子妃殿下、ちゃんと言えてよかったね!


「王太子妃殿下と話が出来て良かったですね。王太子殿下、王太子妃殿下の事を心配していましたから」

「ありがとう、ソニア。君がリリィに言ってくれたんだってね。全部リリィに聞いたんだ。以前、ソニアの部屋に投げ込まれた毒蛇も対処してくれて助けてくれたと聞いた。今回もソニアが開いてくれたお茶会で君達が側妃達を叱咤し、王宮問題を解決してくれたと……申し訳なかった」

「問題解決して何よりですよ。ねぇ、お義理母様」

「……」

 私がお義理母様に声をかければ、お義理母様は腕を組み、射貫くように王太子殿下を見ていた。

 ぴりぴりとした空気を纏っているため、王太子殿下が萎縮して身を縮こませている。


「洗濯係の間でも噂になっていたのよ! 貴方が気づかないってどういうことかしら? 気をつけなさい。王族の醜聞だわ」

「も、申し訳ありません……本当に叔母上にはご迷惑を……しかし、驚きました。叔母上が俺やリリィのために、わざわざ洗濯係として王宮に潜入して噂の解明に挑んでくれたなんて」

「「ん?」」

 私とお義理母様は同時に首を傾げてしまう。


(え、待って。噂の解明ってなに?)


 お義理母様が洗濯係として潜入したことは間違いない。これは本当だ。

 でも、理由はお義理母様のスランプ。

 王宮の泥沼が書けない。それなら王宮の殺伐とした空気を体験して貰おうということで洗濯係として潜入しただけ。


 そのときに、側妃様達と王太子妃殿下の騒動に巻き込まれたというのが正しい。

 なので、噂を聞きつけて王太子殿下のためにという、そんなに大きな理由ではない。


「別に貴方達のためではないわ。私はただ悪魔の囁き……ソニアさんの強制によって洗濯係として潜入しただけよ。そうじゃなければ、洗濯係として働けないわ。伝手がないもの」

「ソニアが?」

「はい。ですので、あまり気にしないで下さい。あと、お義理母様が洗濯係として潜入したのは他言無用でお願いします」

 これ以上、大ごとになってしまえば、ルヴァン様達にまで広がってしまう。

 さすがにそうなると、色々問題になる。

 なぜ、王宮に潜入したのか理由を聞かれちゃうし。


「わかった、秘密にするよ。しかし、ソニアって、噂通り公爵家の猛獣使いなんだね」

「猛獣使いですか?」

 私は首を傾げる。

 猛獣使いって自分がそう言われているってまったく知らない。

 誰に言われているのだろうか。


「あの絶対零度の雪豹が洗濯係を許したり、お茶会を開催したり……今までありえないことが侯爵家で起こっているから、社交界でソニアはそう呼ばれているんだ。誰が見ても叔母上はかなり優しくなったから」

「私が猛獣ですって!? 貴方も私の事を裏でそう呼んでいたの!?」

「あっ……」

 王太子殿下は余計な事を言ってしまったことに気づき、さっとお義理母様から視線を逸らす。


「私のどこが猛獣なのよ? いいなさい」

「そ、そういうところです……!!」

 今にも胸倉をつかみかかりそうなお義理母様に、王太子殿下が身をのけぞらせながら叫んだ。


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