第16話 雪豹を私達で手懐けましょうよ
「あとは王太子妃殿下と側妃様達を待つだけですね」
「えぇ、そうね」
お茶会が開催される時間帯になり、私とお義理母様はお茶会が行われる予定の会場にいた。
お茶会は私達が暮らしている本館ではなく、別館の庭園で行う。
もうすでにメイド達の手によってテーブルなどはセッティング済みで、後はお茶とケーキを用意すれば完了。
細長いテーブルには水色の生地に金のラインが入った布が敷かれ、椅子が等間隔に3脚ずつテーブルを挟んで並べられている。
テーブルの上には花瓶に生けられたお花が飾られているし、庭園にも美しい花が咲き誇っているため、とても華やかな印象だ。
「いよいよですね。お義理母様」
「えぇ、そうね。あの小娘達、私達を思い出すかしら?」
「さすがにこの格好を見たら思い出します」
私が自信満々に言えば、お義理母様は「そうね」と言って頷く。
今の私達が着ているもの。
それは、洗濯係の制服だ。
ドレスを着てあの方達の前に現れても、きっと気づいて貰えないだろう。
人は見た目で判断することが多い。
だから、私が稀少価値の高い生地で作られたドレスを着て、一級品の宝飾品を身につけて側妃様達の前に現れても気づいて貰えないだろう。
だったら、最初からこの洗濯係の格好をすればいい。
きっとこの格好なら絶対に気づくから――
ちなみに、お義理母様はちゃんとかつらを被り、洗濯係・ラベンダーの姿だ。
さすがにこの格好でメイド達の前に出ることは出来ないので、離れの庭園入り口までメイド達が側妃様達を連れて来てくれることになっている。
その後は、「あとはそのまま進んで下さい。そちらで奥様達がお待ちになっています」と伝えてくれるので、私達はここで彼女達を待つのみ。
しばらくお義理母様と談笑をしていると、がやがやと誰かがしゃべっている声が聞こえてきた。
どうやら声はこちらに近づいてきているみたい。
「お義理母様」
「えぇ」
私とお義理母様が声のする方を見れば、そこにいたのは側妃の三人と王太子妃殿下の姿がある。
王太子妃殿下は側妃様達に挟まれていて、びくびくと怯えながらこちらに来ている。
あの三人の間にいるのは厳しいし、辛いだろう。
「あら?」
こちらに到着した側妃様達は、私達を見ると眉を顰めた。
てっきり、公爵夫人達が待っていると思ったのだろう。
夫人はおらず、いたのはなぜか洗濯係二人。
状況がおかしい。
「あんた達、あの時の城の洗濯係じゃない! なんでこんな所にいるのよ。ここはあんた達が来ていい場所じゃないの」
「そうそう。ここは私達のような身分が高い者達が来る場所なのよ。しかも、これからルヴァン様が結婚したソニア様とのお茶会があるの。だから、貴方達はさっさとどこかへ行きなさい。邪魔よ」
「みなさん、お茶会に誘われたんですか?」
「当然でしょ。私達を誰だと思っているの? 王太子殿下の側妃だもの。さっきメイドに聞いたんだけど、今日はあの公爵夫人・絶対零度の雪豹も参加するらしいわ。だから、さっさと退きなさい。底辺と一緒の空気なんて気分が悪い」
「絶対零度の雪豹の顔を見たことがあるんですか?」
目の前にいるんですけど。
……なんて言葉が喉まで出かかっている。
やっぱり洗濯係の格好をしていて良かった。
ドレス姿では、今の側妃様達の顔は見えなかっただろうし。
「当たり前じゃない。公爵夫人のことなんだから。社交界では猛獣扱いされているのよ。でも、雪豹も私達の存在に一目置いているんじゃない? こうして私達と一緒にわざわざお茶がしたいみたいだし。きっと噂が大きく広がっただけでたいしたことないのよね」
「ねぇ、雪豹を私達で手懐けましょうよ?」
「いいわね、それ。私達、もしかして猛獣使い?」
「雪豹が子猫になるかも」
クスクスと笑い出す側妃様達を見ながら、私は目の前に絶対零度の雪豹がいるのになぁと哀れな視線を送る。
お義理母様の反応は? と、気になったので隣を見れば、青筋立てていた。
ビリビリと音が聞こえてきそうなくらいに、エプロンの裾を握りしめている。
(もう少しです! もう少し耐えて下さい、お義理母様!!)
「王太子妃殿下も側妃様達もお席について下さい。お茶会が始まります」
そう私が言えば、側妃様達も王太子妃殿下も首を傾げた。
「え、なに? まさか、公爵家ってメイドも雇えないくらいなの……? 洗濯係にやらせるなんて」
「どうぞお席に座って下さい。もうお茶会のメンバーは揃っていますので」
にっこりと微笑めば、側妃様達から何を言っているんだ? こいつという表情で見られた。
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