第15話 お茶会当日

 お茶会当日。

 お義理母様やメイド達にお茶会の準備を手伝って貰いながら、今日を迎えられてほっとしている。


 朝食を済ませた私は、屋敷の宝飾品庫にいた。

 室内の壁際には棚が並べられているんだけど、そこには希少価値の高い宝飾品が収納されている。

 公爵家でもセキュリティが高く、ここの鍵を持っているのは、執事と侍女長、それからお義理母様だけ。


 屋敷内で3人しか持っていない鍵を「ソニアさん、預かって」って渡されたとしても、私は預かるのを絶対に拒否する。


 だって、怖い!

 ここにある宝飾品を売れば悠々自適に一生遊んで暮らせるから!

 預かった鍵を無くして物を盗まれたら弁償できないし……


 本来ならば入るのも怖い宝飾品庫。

 では、なぜここにいるのか? と問われれば、お義理母様のせい。

 朝からお義理母様にここに連れて来られたのだ。


 じゃあ、肝心のお義理母様はどこに? って思うよね?

 お義理母様は中央に設置されているテーブル側にいる。


 宝飾品を箱から出しては並べて見比べている。

 「ふふっ」と笑っていて、朝から上機嫌だ。


(お義理母様、楽しそうで何よりです。お茶会カウントダウンしていましたもんね)


 部屋にいるのは、私とお義理母様だけじゃない。

 私は今、扉付近にいるんだけど、すぐ傍にはお義理父様とルヴァン様の姿も。


 ルヴァン様は「本当にお茶会するのか?」と呟いているくらい、お茶会が開催されるのをまだ疑っているみたい。

 一方、お義理父様は、涙ぐみながらお義理母様を見ている。


(なぜ、お義理父様は泣きそうになっているのかしら?)


 首を傾げながら見ていると、お義理父様と視線が合った。

 すると、お義理父様は私に会釈をしたので私も会釈を仕返す。


「ソニアさん、ありがとう」

「え?」

 お義理父様にお礼を言われたけど、理由がまったく想像出来ない。

 特に何もしておらず、ただ上機嫌に宝飾品を見ているお義理母様を見ているだけだし。


「ソニアさんが来てくれてから、アネモネが少しずつ変わってきたんだ。今日もあんなに楽しそうにしている。きっとお茶会が楽しみなんだね」

 お義理父様。

 あれはお茶会が楽しみなんではなくて、ただ側妃様達にお灸をすえるのが楽しみなんですよ。底辺呼ばわりされたので。


……そう喉元まで出かけたけど、飲み込んだ。


「俺もそう思います。初日はソニアに対して厳しかったのに、今は違いますからね。棘が抜けた感じがします。ソニアのお陰ですよ」

「本当にそうだな」

 ルヴァン様とお義理父様が笑い合っていると、「貴方達」という声が飛んできた。

 そのため、私は弾かれたように声のした方へと顔を向ける。

 すると、そこにはネックレスを持ったお義理母様の姿が……


「ずいぶん楽しそうね。さっきから何の話をしているの?」

「世間話です。それより、お義理母様。決まりましたか?」

「私のものは、もうとっくに決まっているわ。今、選んでいるのはソニアさんのよ。これなんかどうかしら? どんなにお金を積まれても今は買えない代物よ。伝手と資金がないと王族だって買えやしない」

 そう言いながらお義理母様は手にしていたネックレスを掲げてみせた。

 ネックレスは苺くらいの大きさの宝石が十数個連なっているんだけど、すごく重そう! 


「肩こりそうですね」

「……他の貴族令嬢達が絶対に言わない台詞ね。まぁ、ソニアさんらしいけど。確かに重いわね」

「私のお茶会の衣装に合わないと思います」

「衣装……そういえば、ソニアさん。貴女、どんなドレスを着るの? ネックレスと衣装の色を合わせたいんだけど」

「私の分は選ばなくても大丈夫ですよ」

「実家から持って来たものを使うの?」

「いいえ。実は――」

 私はお義理母様のもとに行くと、ルヴァン様達に聞こえないように小さな声でお義理母様に伝える。

 すると、お義理母様の瞳がだんだん見開いていった。

 かと思えば、口角をあげて笑う。


「あら、それはすてきなサプライズ。私もそうするわ。きっと驚くわね。さっそく私も準備しましょう!」

 お義理母様はスキップをしそうなくらいに軽い足取りで、廊下へと出て行った。

 その後ろ姿を見ながら、ルヴァン様が首を傾げる。


「ねぇ、ソニア。母上と何を話したんだい?」

「秘密です。あっ、ルヴァン様もお義理父様もそろそろお仕事に向かわれるお時間では?」

「そうだな。そろそろ行かないと……」

「私もそろそろ出発しないと間に合わなくなりそうだ」

 ルヴァン様は城へ。

 お義理父様は隣国で会合があるので、今日のお茶会には参加しない。


 私とお義理母様の二人だけ。

 そのため、ある程度秘密裏に進めることができるのだ。


 もちろん、テーブルのセッティングなどは侍女にお願いしている。


「では、お二人とも玄関に行きましょう。お見送りいたしますわ」

 私はそう言うと、扉を開けてお義理父様達を廊下に出るように促した。

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