第13話 進捗状況どうですか? 

 進捗状況どうなんだろう? 原稿読ませて欲しいなぁ。

 そんなことを思いながら、私はお義理母様の私室前に来ていた。


「お義理母様。私です。開けてくれませんか?」

 薔薇の模様が彫られた扉をノックしながら、声をかける。

 けれども、扉が分厚いのか、それともお義理母様が集中しているせいか、まったく反応がない。

 そのため、静まりかえった廊下には私のノック音がむなしく響いているだけだ。


「お義理母様っ!」

 ガサ入れ? と聞きたくなるように強めのノックと呼びかけをしていると、反応があった。

「ソニアさん。どうしたのよ?」と言う声と共にゆっくりと扉が開いていく。


 わずかに開かれた扉の隙間からぬっと現れたのは、お義理母様だ。

 手にはなにか分厚い本を持っている。


 じめじめとした空気をまとっているうえに、室内の明かりがテーブルの上に置かれた蝋燭1本だけせいか、なんか暗い。


「お義理母様、亡国姫の冒険シリーズの進捗状況どうですか?」

「ソニアさん。私、忙しいの。まだリグラズの黒魔術書の原書読み終わってないのよ。あの小娘どもめっ!」

「えっ? 魔術書?」

 てっきり執筆しているかと思ったけど、お義理母様は黒魔術の本を読んでいたようだ。


 リグラズって昔存在したと言われる伝説の魔術師だし、しかも原書。

 原書は古代文字なんですけど。スペック相変わらず高いなぁ。


「お義理母様。亡国姫の冒険シリーズの続きは? 私、かなり期待していたんですけど」

「書いていたわよ。途中まではね! でも、それよりもあの小娘達の事を思い出してムカついて仕方ないのよ! なんで洗濯係が底辺なのよっ!? そもそも底辺の仕事って基準なに? 勝手に決めつけないで欲しいわ」

「お義理母様。お気持ちはわかりますから落ち着いて下さい」

「あなた、悔しくはないの!?」

「嫌味を言ってくる人はいますからね。洗濯係のことだけじゃなくても、うち……男爵家のことも言う人もいますし。言わない人が大半なので問題ないです」

「わかっているわよ! 言ってくる人が少ないことくらい。でも、真っ白の布に黒いインクが一滴わずかに垂れた時みたいに気分が滅入るのよっ!!」

「その例え、さすが覆面作家先生。そこで、お話があるんです。側妃様達と王太子妃殿下を呼んでお茶会しませんか?」

 私がぽんとお義理母様の肩に手を置けば、お義理母様が息をのんだ。

 かと思えば、ぐっと眉間に深く皺を作り、口元を歪める。

 今にも持っていた魔術書を振り回しそうな勢いのまま、「冗談じゃないわ!」と

地を這う声で言った。


「王太子妃のリリィ様はまだいい。あの小娘達とお茶をのめと? ソニアさん、貴女正気?」

「正気ですよ」

「あなた、あの小娘達の仲良くしたいわけ? 底辺扱いしたのよ。私達を」

「仲良くするわけじゃありません。それより、まず先に聞きたいんですけど、私がお茶会の主催者として王太子妃殿下と側妃様達を招くことは可能ですか? 私、ただの男爵令嬢なんですよね」

 私の質問に対して、お義理母様が深い溜息を吐き出した。


「あなた、どこに嫁入りしたと思っているの? 公爵家の紋章が入った招待状を送られて拒否できる人間がいると思って?」

「あっ、そうでしたね」

 すっかり忘れていた。

 嫁いだから、公爵家の人間になったんだ。


「じゃあ、大丈夫そうですね。お義理母様、お城で王太子殿下と会った時のことを覚えていますか?」

「リリィ様のことを気に掛けていたわね。話し合い手が欲しいと。でも、あれはきっと側妃達とのトラブルだから、話し合い手を用意しても変わらないわよ」

「えぇ。私もそう思います。毒蛇はさすがに見過ごせません。ちょっと本人達にお灸を据えた方がいいかなって思いませんか? 幸い、私達の正体はまだバレていませんし」

「何か考えがあるのね?」

「もちろんです」

 私は自信満々に頷く。


 そもそもの原因は側妃様達が王太子妃殿下へ行っているいびり。

 王太子殿下は王太子妃殿下のことを気にされているけど、原因は側妃様達だからこっちをなんとかしないと問題は解決しない。


 お義理母様の苛立ちも王太子殿下の憂いも二つ解決する方法は、側妃達にお灸をすえることのみ!


「……わかったわ。お茶会をしましょう。侍女達にも言っておかなきゃいけないわね。準備もあるだろうし」

「そろそろ夕食の時間です。お義理父様達も揃うので、その時に伝えたらよろしいのでは?」

「そうね」

「じゃあ、さっそく食堂に行きましょう」

 私がそう言うと、お義理母様は頷いた。



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