第12話 王太子妃殿下のこと、どうなりましたか?

「ルヴァン様。日中、お城で会った時に王太子殿下が王太子妃殿下のことを話していたじゃないですか? あれ、どうなりましたか? 王太子妃殿下の話し合い手の件」

「あぁ、言っていたな。母上にダメ元でお願いしてみるけど、厳しいだろうな。あの人お茶会とか夜会とか参加しないんだ。昔はしていたみたいだけど……」

「えっ、そうなんですか?」

 お義理母様、ハイスペック持ちで元王族。

 外交なんて得意中の得意そうだから、色々国のために動いてそうだから不参加って意外だ。


「昔は夜会などにも出ていたんだ。あの人、王族時代は外交も担当していたから。でも、十年くらい前に酷く落ち込んでいる時期があって……そこからお茶会も夜会も参加していないんだよ」

「十年くらい前?」

 それって、亡国姫の冒険シリーズの連載が止まった時だ。

 やっぱり、それが原因だろうか。


 今まで書けていたものが書けなくなるのって、私が想像するよりも恐ろしい事なのかもしれない。

 お義理母様は覆面作家だったから、家族にも伝えていなかったみたいだし。


「たぶん、何かあったんだろうな。でも、俺も父上もただ静かに見守るしか出来なかったんだ。無理に何かあったのか? って聞くと追い詰めてしまうかもしれないと思って……でも、そうしているうちに月日が流れて……俺はずっと聞かなかった事を後悔している」

 ルヴァン様が大きく息を吐き出すと、肩を落とす。

 私よりも筋肉質で大きな身体なのに、今はその体が小さく見えてしまう。


 今にも泣き出しそうになっているルヴァン様を見て、私は彼の頭を撫でた。

 迷子の子供を慰めるように、優しくゆっくり。

 すると、ルヴァン様が大きく何度も瞬きをした。


「ソニア……?」

「お義理母様なら、もう大丈夫ですよ」

 もし、スランプで執筆が止まっていたのが原因なら、問題解決して執筆中。

 ちゃんと前に進んでいる。

 だから、もうルヴァン様が気にすることはない。


「初対面の時はお義理母様が猛獣って呼ばれている理由がわかりました。でも、今は落ち着いてきていますよね?」

「確かにソニアの言う通りだ。落ち着いている。ソニアが洗濯係に復職するのをあんなにさくっと了承したし、淑女たる者~なんて言わなくてなったし」

「お義理母様なら大丈夫です。ですから、ルヴァン様はご自分の事を第一に考えて下さい」

「えっ?」

「ルヴァン様は騎士団長として重責ある仕事をしています。いつも民のため、国のために働いています。結婚前ですけど、一緒に王都の食堂で夕食を食べたのを覚えていますか?」

「行った。何度か誘って……」

「呼び出しがあったら食事も途中でやめて、すぐに現場に駆けつけていたじゃないですか」

 ルヴァン様から縁談を申し込まれる前の出来事なんだけど、食事に誘われ、夕食を王都のお店で食べることがあった。


 でも、その時に呼び出しがあり、ルヴァン様は「すまない、ソニア」と言ってお金を置いて店を出ることが何度かあったのだ。

 仕事だから事情はわかる。

 事件はこちらの事情を考えて起こらないから。


 でも、そのたび、この人は体を休める時があるのだろうか? って思っていた。


「すまない……あの時はソニアの事を食堂に置いて行ってしまって……」

「私のことはいいんですよ。でも、ルヴァン様のことは誰が守るんですか? 他の人を優先するのも大事ですが、ご自分の事も考えて下さいって事です。ですから、私が引き受けられるのは私が背負います。私はルヴァン様の妻なので」

「ソニア、何度俺を惚れさせれば気が済むんだ……」

 ルヴァン様は顔を真っ赤にさせると、両手で顔を覆った。


「ひとまず、お義理母様と王太子妃殿下の件は、私に任せて下さい」

 ぼんやりだけど、考えたことがある。

 王太子殿下に内緒で王太子妃殿下の問題を解決できる方法を。


 幸い、私達が公爵家の人間だとはバレていない。

 だから、それを逆に利用すればいい。


「王太子妃殿下をお茶会にお誘いしたかったんです。側妃様達も一緒に。私、お茶会を開催したことがないから、お義理母様にお手伝いして貰いたいんです」

「母上に? それなら俺も一緒にお願いするよ」

 ルヴァン様が不安そうに言ったけど、私は首を横に振った。


(まぁ、普通は無理だと思うよね。でも、心配は不要。きっとお義理母様なら了承してくれるから!)


「大丈夫です。お義理母様は二つ返事で了承してくれます」

「いや、ちょっと難しいかも……」

「大丈夫です! では、さっそくお義理母様のところに行ってきます。ルヴァン様は着替えを済ませて下さい。もうそろそろで夕食の時間ですから。私はお義理母様のもとに行ってから、私も食堂に向かいます」

 ルヴァン様にそう告げると、扉を開けて廊下に出た。


(ついでにどれくらい物語が進んでいるのか、進捗状況確認しないと!)


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