第11話 帰宅後のくつろぎ時間

 洗濯係の仕事終えた私は、屋敷へ帰宅した。

 王太子妃殿下の件はすごく悩んだんだけど、結局王太子殿下に伝えることが出来ず。


 もちろん、伝えた方がいいのはわかる。

 でも、王太子妃殿下のことを考えると……


 王太子妃殿下の気持ちを汲んだんだけど、やっぱり心がモヤモヤする。

 そのモヤモヤを少しでも解消するために、私は今ゆっくりと自室で読書をしていた。


 自室といっても、絢爛豪華な部屋ではない。

 公爵家にある私の部屋は実家にあった自分の部屋と似た造りをしていて、必要最低限のものしか置かれていない。

 その方が慣れているので、使いやすいかなって思ったのだ。


 だから、家具類もあまりない。

 大人4~5人はゆっくり座れる大きなソファ、大理石で出来たテーブル、それから本棚などの家具類が設置されている。


 ただ、実家と違ってここにあるものは、家具一つとっても私の給与が数年飛ぶくらいの代物だということだけ。


「やっぱり、おもしろいなぁ。お義理母様……バイオレット先生の本」

 私はソファに寝転がりながら、亡国姫の冒険シリーズを読んでいる。


 この本は子供の頃から読んでいたため、かなりくたびれているけど愛着が強い。

 実家では固いソファに座っていて読んでいたけど、今はふかふかのソファ。

 まるで雲みたいなので、体が痛くない。


 ソファの傍にはサイドテーブルがあり、メイドが用意してくれた紅茶と茶菓子、それからアロマキャンドルが乗せられていて、仕事の疲れが癒やされる。


 ソファでゆったりと物語の世界に浸れるのが幸せだ。


 ちなみにお義理母様は私よりも先に帰宅し、いまは人払いして部屋に籠もっているそうだ。

 きっと執筆をしているんだろう。


(あっという間に読み終わってしまったわ。早くこの亡国姫の冒険シリーズの続きを読みたい!)


「ソニア?」

 ちょうど本を読み終わったので本を閉じると、ルヴァン様の声とノック音が聞こえた。

 どうやらルヴァン様が帰宅したみたいなので、私は起き上がる。


 もうそんな時間なのか。

 時が経つのが早い。


 私が「どうぞ」と中に入るように促せば、扉を開けてルヴァン様が入ってきた。

 満面の笑みを浮かべているし、今にもスキップしそうなくらいで上機嫌。


 私は仕事が終わると疲れるけど、ルヴァン様は疲れないのだろうか?

 そう思うくらいにいつも帰宅するたびに元気だ。


(やっぱり騎士だから、体力あるんだろうなぁ……)


「お帰りなさいませ」

「ただいま。もしかして、読書中だった? ごめん、邪魔しちゃったかな」

 ルヴァン様は私が手にしている本を見ながら眉を下げたので、私は首を横に振った。


 何度も読んだ本だし、もうすでに読み終わっていたので大丈夫。

 なので、ルヴァン様が気にする必要はない。


「何を読んでいたんだい?」

 ルヴァン様は私の隣に座ると、本へ視線を向ける。

 私は彼が見やすいように、手にしていた本の表紙を掲げながら唇を動かす。


「亡国姫の冒険シリーズです。続きが気になるまま十年経っちゃって……」

「あー、確かに。続き出ていないもんな、それ。ソニアの他にも続き気になっている人いるだろうな。世界中で人気だったから」

「いっぱいいると思います。早く続き読みたいんですよね」

「いつか、続き読めるといいな」

「はい」

 私がテンション高めに返事をすれば、ルヴァン様が私の頬を撫でた。


 ルヴァン様は知らない。

 この作者が実はお義理母様で、現在おそらく続きを執筆していることを――


 しかし、まさか初日から王宮泥沼に遭遇するなんて思ってもいなかった。


(お義理母様、ブチ切れていたなぁ。「洗濯係なんて底辺の仕事」そんな言葉を投げつけられたことなんて今までなかっただろうし)


 しかも、蝶よ花よと育てられた姫。

 今は降嫁して公爵夫人だけど、それでも身分は高い。


 お義理母様の執筆が進んで何よりなんだけど、王太子妃殿下のことが気がかり。

 なんとかしてあげたい。


 王太子殿下は王太子妃殿下のために、なにか行動をしたのだろうか?


 疑問に思った私は、ルヴァン様に聞いてみることにした。

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