第7話 潜入初日で息子と甥に遭遇するなんて強運ですね!

 翌日。私はさっそく前職である洗濯係として働いていた。

 手に乾いたタオルなどを山ほど抱え、廊下を歩いている。

 その隣には金髪の三つ編みをした女性の姿が。

 かつらを被っているお義理母様だ。


 青色のワンピースに白いエプロンという洗濯係の格好をしているんだけど、いつもの覇気がまったく感じられない。

 まるで、借りてきた猫状態。


「ラベンダーさん。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ!」

 私は隣のお義理母様に声をかければ、ため息交じりの返事が届く。

 ちなみに、ラベンダーさんというのはお義理母様の偽名。

 城ではこの名で過ごすことになっている。


「貴方ね、こんな突拍子もないことをしておいて平穏な心でいられると思う? しかも、城には息子もいるのよ。息子だけじゃないわ。兄や甥、姪達も……ハイリスクな状況なのよ」

「大丈夫ですって。そう簡単にばったり遭遇したりしませんよ。私、陛下や王太子殿下に遭遇したのってほとんどないですから。ルヴァン様とは結構頻繁かな」

「息子だけでも大問題じゃないの! 親としての威厳が……公爵家に嫁いだのに、まさか創作のために洗濯係として王宮に潜入だなんて。バレたら大問題よ」

「バレなければ大問題じゃないってことですよ」

 そんな話をしていると、前方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


(あれ、この声って……)


 私が立ち止まれば、お義理母様もぴたりと立ち止まる。

 ちらりと様子を窺えば、まるで石像のように硬直していた。


(ですよね。だって、この声、ルヴァン様と王太子殿下だもの!)


「ソニア!」

 弾んだ声を上げながら、ルヴァン様が手を振りつつこちらに向ってやって来た。

 隣には王太子殿下の姿もあるんだけど、殿下の表情が芳しくない。


 お義理母様の甥であり、次期国王陛下であるリズン様。

 ルヴァン様は見るからに軍人という体型だけれども、王太子殿下は細めで中性的な見た目だ。


 透き通るようなエメラルドグリーンの髪を一つに束ねているんだけど、彼が動くたびにそれが猫の尻尾のように揺れ動く。

 見目麗しき顔立ちだけじゃなくて、人懐っこい笑みを浮かべているので、王太子殿下なのに親近感が湧くため、いろんな人に慕われている。


(すごいですよ、お義理様。まさか初日から二人と遭遇させるなんて! ある意味強運の持ち主です)


「いや~。まさか、初日からソニアと会えるなんて思ってもいなかったよ。なんて幸運なんだ」

 にこにこしながらルヴァン様が言う。


 私だけじゃなくて隣にはお母様もおりますよー。俯いて震えていますが。

……と喉元まででかかったけど、ぐっと飲み込む。


 山になっているタオルでお義理母様の顔が隠れているため、気づかないのかもしれない。


「おや、隣の女性はあまり見かけない人だね。ソニアの同僚かい?」

「はい。今日、職場体験の方なんです。私、教育係なんですよ。だから、ちょっと緊張しているみたいです。すみません」

「いや、俺の方こそ、申し訳ない。ソニアを見かけたら駆け寄ったが怖がらせてしまったようで。申し訳ない」

 ルヴァン様はお義理母様に声をかければ、お義理母様が首を小さく横に振る。

 どうやらバレていないようだ。

 まぁ、お義理母様が変装して洗濯係として働いているなんて想像もしていないだろうし。


「殿下。顔色が優れませんが、お体大丈夫ですか?」

 私はルヴァン様の隣にいた殿下へ声をかけた。

 すると、殿下は我に返るといつもの笑みを貼り付ける。





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